本書は、「お江戸豆吉」シリーズの幕開けとなる作品です。豆吉は、江戸で評判の菓子屋「鶴亀屋」で働く11歳になったばかりの小僧さん。大旦那さんや鶴亀屋で働く人はみんな優しく、豆吉は元気で働いているのですが、この店には一人だけ豆吉が苦手な人がいます。
それは、鶴亀屋の跡継ぎの若旦那・米蔵。何しろ顔が怖く、体も大きく、とにかくおそろしくけんか早い。客と喧嘩するは当たり前。石ころともけんかを始める始末。もちろん石ころがけんかをするはずがありません。完全に若旦那の独り相撲なのですが。
この若旦那、とうとう店先で客の建具屋辰五郎と大喧嘩をしてしまいます。このけんかの原因がなんともくだらない。大福餅の餅は薄い方がいいか、厚い方がいいかということなのです。ちなみに、若旦那は餅は薄い派、辰五郎は厚い派です。
この喧嘩が元で、とうとう若旦那は、堪忍袋の緒が切れた大旦那さんに、店から出されてしまいます。鶴亀屋から独立して隠居した人の店を軌道に乗せるまでは帰ってくるなという訳です。若旦那のお目付け役に大旦那から指名されたのが、なんと豆吉。
ところが、その独立した職人さんの店と言うのが、とんでもないぼろ家。それでもなんとか開店にこぎつけます。ところが、この店が辰五郎に見つかってしまいます。顔を合わせると若旦那と辰五郎はけんかを始める。しかし、それは二人の挨拶のようなもの。本当に仲が悪いわけではないようです。豆吉も、最初は怖がっていた若旦那ですが、得るものも多かったようです。
表題の「けんか餅」というのは、豆吉がつくるのをまかされた、餅の厚い大福。それに「けんか餅」と言う名前がついて評判になるのですがら、世の中分からないものです。
お話はなんともユーモラスな感じで進んでいきます。苦手だった若旦那のすごいところを見たりして豆吉も、鶴亀屋にいるときよりかなり成長したようです。いうなればこの作品は豆吉の成長物語とでもいうのでしょうか。
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