タイトルは「橋場の人魚」だが、もちろん本物の人魚というわけではない。泳ぎが得意で、まるで「人魚」のようなことからつけられた二つ名である。ただし、つけられた者は、単に泳ぎが得意と言うだけでなく、人殺しもする犯罪者。平次に言わせれば化物である。まあ、昔の日本の人魚の絵を見ると、本当に化物のような絵があるのだが。少なくとも、マーメイドとかローレライなどと呼ばれていた者たちとは大分姿が異なる。
さて事件の方だが、いつものように八五郎が平次のところにやってきて、橋場で質両替の組頭をやっている伊豆屋の息子・菊次郎(次郎と付いているが惣領息子)が土左衛門になって見つかる。ちなみに平次の自称ライバルである三輪の万七は、事件性がないとしてさっさと帰ってしまったらしい。さすがは平次の引き立て役。
平次が乗り出したのは、菊次郎の許嫁のお夏から、菊次郎の死はとても事故死とは思えないとの訴えを聞いたからだ。このお夏、元は武家の娘で、親が死んでからは、伊豆屋に引き取られて将来は菊次郎といっしょにさせるつもりだったようだ。しかし、お夏は元武家の娘。しっかりしすぎてどうも菊次郎とは合わなかったようである。菊次郎は向島にある茶屋のお銀という女に溺れて、放埓三昧。とうとう座敷牢に押し込められてしまった。今回の事件は、菊次郎が座敷牢を抜け出して隅田川に漕ぎ出した時に起こったらしい。
しかし、江戸時代の女性は泳ぐときに腰巻を巻いて泳いだという。さすがに腰巻を巻いて泳いだことなはいが、これだと、腰巻が足に絡んできて、ものすごく泳ぎにくくなるのではないのだろうか。
この話では平次は銭を投げていない。銭形平次と言えば投げ銭がトレードマークなのに、銭形平次の捕物帳には、銭を投げる話の方が少ないくらいなのだ。でも平次が言葉で犯人をひっかけるのは面白いと思う。
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