ニッポンの奇祭 (講談社現代新書) | |
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講談社 |
・小林紀晴
本書の著者は、諏訪生まれの写真家だ。私も昔訪れたことがあるが、諏訪と言えばなんといっても諏訪大社である。諏訪大社は、上社と下社に別れ、更に前者は本宮と前宮に、後者は秋宮と春宮に分かれているので、合計4つの神社から構成されていることになる。
時折、テレビで放映されるのを視るが、諏訪大社では、6年に一度御柱祭りというものすごい祭りが行われることでも有名だ。これは、山から切り出した大木を神社の四隅に立てるというものだが、それを運ぶ際には、氏子たちが群がって、山から転がり落ちてくるといった表現がぴったりなくらいのなんとも豪壮なものだ。ちなみに時々死傷者が出るらしい。
しかし、日本の奇祭はこれだけではない。まだまだ全国には、私たちが驚くような祭りが存在しているのだ。本書は、著者が取材したそんな祭りに数々を写真と文章で紹介している。
しかし、新書一冊に収めるためだろうか、収められているものに結構偏りがあるのだ。長野県や九州・沖縄、東北の祭りは結構収められているのに、中国地方のものは一件もない。例えば日本三大奇祭として知られる岡山西大寺観音院のはだか祭り、山口県下関市長府にある忌宮神社の数方庭祭、同じく山口県防府市の小俣地区に伝わる「笑い講」などは、本書に収められている奇祭と比較しても、けっして引けは取らないと思うのだが。これは、ぜひ続刊を出してくれることを期待したい。
ショッキングだったのは、宮崎県の銀鏡神社で行われる銀鏡神楽だ。なんと猪の生首が神様に捧げられるのである。これにはびっくり。
沖縄県の宮古島で行われるパーントゥという祭りも極めて興味深い。全身を草を編んだもので覆い、そこに泥を塗りつけ、仮面を被った奇怪な姿の人々が、誰かれ構わずに泥を付けていくというもの。新築の家には、このパーントゥに中に入ってもらい壁に泥を塗りたくるのが、しきたりらしい。
どの祭りを見ても、まさに縄文の息吹、ディオニュソスの狂乱といったものが感じられそうだ。しかし、近年の少子高齢化、過疎化の影響を受けて、滅んでしまった祭りもかなりある。そういった中で、このような本を編むのは、各地方の文化を後世に伝えるという観点からも意義があるものと思う。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。