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・さかはらあつし
本書は、理容室「ザンギリ」を舞台にして、小説仕立てで小さな組織でもうまく戦略的な事業活動を行えば成果があがることを示したものだ。なお、舞台となった「ザンギリ」は実際に西新宿に存在している。
実際のホームページにはスタッフが似顔絵イラストとともに紹介されているので、本書に登場するザンギリのスタッフはすべて実在の人物であることが分かる。
ザンギリは元々は、家族で営むオフィスビルの地下にあるどこにでもある理容室だったようである。ある日ザンギリ二代目の大平法正氏は、たまたま訪れた立三という元戦略系のコンサルタントに興味を持つ。京都の人間という設定のようだが、関西弁丸出しのヘンなおっちゃんという感じなのだ。
本書は、法正氏が、立三さんの指導を受けながら、どのようにザンギリを発展させていくかというものになっている。
よく知られているように、理容業界というのは価格競争が激しい世界だ。組合に加入している理容店だと4000~5000円の料金が普通だが、その一方では早くて安いがい売り物の格安理容室も台頭している。果たしてどのようにすれば、普通の理容室である「ザンギリ」に未来が開けるのか。
ところで、皆さん、経営学や経営戦略に関する本を読んで、どうにも理解できなかったことはないだろうか。本書は、それらに出てくるツールを具体的にどのように使えばいいのかがよく分かり、その方面を勉強したい人には役に立つものと思う。
蛇足ながら一言付け加えたい。本書の中で法正氏の父親が、知人の保証人になる場面があったが、その後の展開は予想通り。借りた人間が行方をくらましたらしく、法正氏の父親も入院したので、法正氏が対応した。その時取り立てに来た先方の営業部長が、「払えなかったら、どうなるんすか?」という問いに対して、「(前略)足りない分は腎臓でも売って、返してもらうことになるんじゃないかな」(p212)なんて言っているが、今どきこんな取り立てをしたら、法的には完全にアウトだ。
常連客の弁護士に相談したら、「これは仕方ないね。契約は契約だから」と言ったらしい。取り立ての際にそんな発言をしているくらいだから、金利の方も違法な可能性もある。本当にどこまで返済しないといけないのかを洗い直す必要もあるだろう。かなりフィクションが入っているとは思うが、弁護士が本当にこんな発言をしたのなら、どれだけ無能なんだと思ってしまう。
ともあれ、経営企画関係に興味がある方、その方面で仕事をしている方、大学などで勉強をしている方などは、一読しておいても損はないと思う。
※初出は、「風竜胆の書評」です。