・大栗 博司
重力というものは、なんとも不思議なものだ。身の回りにの全てのものにあまねく働いているのだから、これほど身近なものはない。しかしその正体はいったい何なのか。なぜ電磁気力のように反発する力がないのか。物体間には必ず働いているとはいえ、あまりにも弱すぎるので、普段は地球による重力以外はほとんど意識することもない。
この重力を扱う理論がアインシュタインの一般相対論だ。彼の理論は時空の歪みで重力を説明する。光は重力場の中で曲がるが、これは曲がった時空の中を光が進んでいくからである。
しかし、一般相対論は、ブラックホールや初期宇宙のような特異点を扱えない。これを扱うためには量子力学との矛盾を解決しなければならない。
現在素粒子を弦の震動と見なす超弦理論が、相性の悪かった相対論と量子力学を統合する究極理論として期待されている。この理論は重力を含んでいるのだ。
本書は、アインシュタインの相対論に始まる過去100年の重力研究の歴史をたどると共に、最新の重力理論に基づいた宇宙像について解説したものである。そのカバーする範囲は、特殊相対論、一般相対論、量子力学そして超弦理論と広い。マルチバースや人間原理とかなり広い。
あまり予備知識のない人も、本書を読めば、重力理論がどのように発展してきたか、その発展のために、多くの物理学者たちがどのような貢献をしてきたかということがよく分かるだろう。重力理論の発展を記述した、物理学史と思って読めば良い。
ただ、腐っても物理学。フォログラフィ原理等、中には難しい概念が出てくる。しかし全体的には、初心者を対象としたような話が多い。あとがきによれば、30年ぶりに再会した高校の同窓生に、自分が勉強し、研究し、今日まで考えてきたことを語るつもりで書いたということだから、この狙いは成功しているのだろう。ただしその反面、ある程度の物理学の知識がある人には却ってまだるっこしく思われるかもしれないのだが。
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※本記事は、書評専門の拙ブログ「
風竜胆の書評」に掲載したものです。