文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

ふるさと創生―北海道上士幌町のキセキ

2019-05-10 09:08:38 | 書評:ビジネス
ふるさと創生―北海道上士幌町のキセキ
黒井克行
木楽舎

 本書は、北海道上士幌町における地方創生の取り組みを描いたノンフィクションだ。今は少子高齢化により、その地方の中心となる都市を除けば、人口は減り続けている。本書で描かれる上士幌町も5年前には消滅可能都市の1つだった。

 北海道では札幌市への1局集中が進んでいる。そんな中で、唯一の例外として人口が増加しているのが上士幌町だ。その追い風となったのが「ふるさと納税」の制度。税収が6億円の町に、ふるさと納税による寄付が2016年度には21億2482万円もあったというのである。

 上士幌町では、ふるさと納税による収入を、単なるあぶく銭として扱ったのではない。未来を見据え、基金として積み立て保育料の完全無料化などを成し遂げた。また、返礼品を自分たちの町を知ってもらうための機会と位置付け、町の魅力をPRしている。

 「バルーン(熱気球)のふるさと」としてのまちづくりや産業廃棄物でしかなかった「旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群」を産業遺産として観光資源にする等、取り組みがいきあたりばったりでなく戦略的なことに感心する。

 福祉や教育支援などにも力を入れている。しかし地方ならではの問題もあるだろう。その第一はやはり仕事のことだろう。

「選り好みしなければ仕事はいくらでもある。むしろ地方は慢性的な人材不足だ」(p168)

と町長は言うが、これは「選り好みしなければ」という言葉に注意だ。自分が付きたい仕事に付こうと思うと地方には職がない。例えば大学院を出てやるような仕事がどれだけあるのか。ただ最近のICT技術の発達により、昔とは大分条件が変わっている。これは地方にとって大きなチャンスだろう。

 もう一つネックとなるのはやはり医療だろう。誰でも歳をとると病気にかかりやすくなる。簡単な病気ならいいが、大病で都会の病院に通院するとなると年配者には大きな負担となる。2年前に亡くなった私の父も晩年通院には苦労していた。

 この上士幌町の取り組みをそのまま真似しても、おそらくうまくいくことは少ないだろう。地方にはそれぞれの良さがあるからだ。しかしこの町の取り組みは多くの過疎化に悩む自治体にとって大きなヒントになるのではないかと思う。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

朧月市役所妖怪課 河童コロッケ

2019-05-08 11:34:44 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
朧月市役所妖怪課 河童コロッケ (角川文庫)
青柳 碧人
KADOKAWA / 角川書店

 この作品の主人公は、宵原秀也という青年。自治体アシスタントとして朧月市にやって来た。自治体アシスタントというのは、試験合格後に登録しておけば、自治体からの要請により期間限定で日本各地に派遣されるという設定だ。そして宵原が配属されてのがなんと「妖怪課」。この朧月市には日本全国の妖怪を封じ込める役割があった。事の初まりはマッカーサーの時代らしい。

 妖怪課の職員はそれぞれ妖怪の血を引いているようで、みなちょっとした異能を持っている。しかしなぜ何も特別な力を持っていない宵原が配属されたのか。実は、彼にも妖怪に関する大きな秘密があったのだ(本人は無自覚だが)。そのために彼は妖怪課に来ることになったのである。

 ちょっと内容で気になることがある。

「環境局の井上局長なんかは・・・」(p107)

「G県朧月市、人工八万弱のこの小さな地方自治体が、自分にとっての新しいステージだ。」(p11)

 大きな市ならともかく、この程度の規模の市で局制ではなく部制だろう。Gの頭文字がつくのなら、群馬県か岐阜県ということか。人工八万弱という条件から群馬県なら渋川市か館林市、岐阜県なら中津川市といったところか。念のためにこれらの組織図を調べてみると、やはり部制である。(道府県の場合は地方自治法の絡みで部の下に局が置かれる場合があるが、一般には局はいくつかの部を束ねたものである。)

 著者は、「浜村渚の数学ノート」で知られる青柳碧人。

 ところで、この自治体アシスタントという制度、どうもうまくいっていないという設定のようだ。「お役人の考えることはうまくいかない。」ということか。その他にも著者がお役人に対する考えが出ていて、なんとも興味深い。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

なんでここに先生が 5

2019-05-06 09:06:57 | 書評:その他
なんでここに先生が!?(5) (ヤンマガKCスペシャル)
蘇募 ロウ
講談社

 男子高校生と年上女性教師のラブコメ漫画もこれが5巻目。今回のヒロインはホムラ・フランチェスカ。一方の男子高校生は、川沼西高校1年の伊藤という生徒。ホムラは幼いころ日本に1か月だけ住んでおり、その時に伊藤と出会っていた。ホムラが日本にやってきたのも大好きな伊藤に会うためである。

 実はホムラは15歳で飛び級により、アメリカの大学を卒業したという天才であり、日本に来たのも、川沼西高校の外国語指導助手(ALT)としてである。だから伊藤とは先生と生徒との関係であり、男子高校生と女性教師のラブコメという基本コンセプトは踏襲している。二人は日本なら同級生になるのだが、ホムラは4月生まれ、伊藤は3月生まれなので、厳密には年上女性教師ということになるのかな。

 初めての同年代の彼女と言っても、もちろんラッキースケベ場面は他の巻と同じ。いやラッキースケベを遥かに飛び越えた、エロエロシーンの連続。でもABC分類でいうとBまでで、笑える場面も多いため、それほどエロさは感じない。

☆☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

価格はアナタが決めなさい。 輸入ビジネスに学ぶ儲かる仕組み

2019-05-04 08:45:52 | 書評:ビジネス
価格はアナタが決めなさい。 輸入ビジネスに学ぶ儲かる仕組み
大須賀 祐
集英社

 日本の企業は利益率が低いという話はよく聞く。特に価格くらいしか差別化できないようなコモディティ的なものは、価格競争に陥り、どんどん利益率が下がってくる。

 しかし、その一方では、ものすごく高い値段で売られているものもある。例えば海外ブランド製品。私自身はまったくブランドには興味がないのだが、そういったものをありがたがる人も多いのは事実だ。

 要するに価格競争に陥ってしまうのは、どこにでもある製品だということが言えるのではないか。これがあまり身の回りにないものなら、価格は売り手がその商品の価値に合うように自由に決められる。その手段として、本書では、輸入ビジネスを勧める。それもBtoBのビジネスである。BtoBなら、買い手が販売のノウハウを持っているので、自分で消費者に売る方法を悩む必要がないのである。

 しかしリスクがまったくないわけではない。海外では普通に売られていても、日本の法に触れるようなものはもちろんだめである。また商慣習の違う海外と取引をするときにはそれに関するリスクもある。ちゃんと契約書で担保しておかないとあぶないのだ。本書ではそういった注意事項もきちんと書かれており、薔薇色の夢ばかりを並べているようなものとは一線を隔しているものと思う。これから輸入ビジネスを始めたい人、輸入ビジネスに興味を持っている人には読んでおいて損はないものと思う。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする