ふるさと創生―北海道上士幌町のキセキ | |
黒井克行 | |
木楽舎 |
本書は、北海道上士幌町における地方創生の取り組みを描いたノンフィクションだ。今は少子高齢化により、その地方の中心となる都市を除けば、人口は減り続けている。本書で描かれる上士幌町も5年前には消滅可能都市の1つだった。
北海道では札幌市への1局集中が進んでいる。そんな中で、唯一の例外として人口が増加しているのが上士幌町だ。その追い風となったのが「ふるさと納税」の制度。税収が6億円の町に、ふるさと納税による寄付が2016年度には21億2482万円もあったというのである。
上士幌町では、ふるさと納税による収入を、単なるあぶく銭として扱ったのではない。未来を見据え、基金として積み立て保育料の完全無料化などを成し遂げた。また、返礼品を自分たちの町を知ってもらうための機会と位置付け、町の魅力をPRしている。
「バルーン(熱気球)のふるさと」としてのまちづくりや産業廃棄物でしかなかった「旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群」を産業遺産として観光資源にする等、取り組みがいきあたりばったりでなく戦略的なことに感心する。
福祉や教育支援などにも力を入れている。しかし地方ならではの問題もあるだろう。その第一はやはり仕事のことだろう。
「選り好みしなければ仕事はいくらでもある。むしろ地方は慢性的な人材不足だ」(p168)
と町長は言うが、これは「選り好みしなければ」という言葉に注意だ。自分が付きたい仕事に付こうと思うと地方には職がない。例えば大学院を出てやるような仕事がどれだけあるのか。ただ最近のICT技術の発達により、昔とは大分条件が変わっている。これは地方にとって大きなチャンスだろう。
もう一つネックとなるのはやはり医療だろう。誰でも歳をとると病気にかかりやすくなる。簡単な病気ならいいが、大病で都会の病院に通院するとなると年配者には大きな負担となる。2年前に亡くなった私の父も晩年通院には苦労していた。
この上士幌町の取り組みをそのまま真似しても、おそらくうまくいくことは少ないだろう。地方にはそれぞれの良さがあるからだ。しかしこの町の取り組みは多くの過疎化に悩む自治体にとって大きなヒントになるのではないかと思う。
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