しょぼい喫茶店の本 | |
池田達也 | |
百万年書房 |
「しょぼい喫茶店」というとなんだか悪口のようだが、東京・新井薬師に、この名前のついた喫茶店が実在する。本書は、この喫茶店を開業した著者の物語。
著者の池田さんは、高校で自信を無くした。中学のときはバスケットボールの選手として活躍しており、高校でもバスケットボール部に入部したのだが、高校生は体も大きくて速く、芽が出なかった。そして、その部の顧問だか監督だかの教師が最悪だった。
時には先生に胸ぐらをつかまれることやビンタをされることもあった(p9)
また、練習試合で交代に手間取っていると、
「トロトロしてんじゃねえよ! このノロマが! そんなんだからいつまで経っても役立たずなんだよ! この使えねえグズ!」と怒鳴った。(p11)
もうクビレベルの、とんだ暴力&パワハラ教師だ。私なら、即訴えてやるのだが、当時の著者の精神状態では難しかったんだろう。
そして自己嫌悪に苦しみながら、大学に進む。しかし就職の時期が近付くと、就活から逃れるためにカナダに留学してしまう。それは就職時期を先延ばしにしただけ。そして、帰国後に挑んだ就職試験にも失敗してしまう。それが著者をますます落ち込ませる。これが理系なら、大学院の修士課程に進んで2年間のモラトリアム期間を得るという手もあるのだが、日本では、文系で下手に大学院に進むとますます就職の間口が狭くなってしまう。
そんな彼を救ったのはネットで知り合った人々。いろいろと彼なりの戦略はあったようだが、自営業の道を選んだ著者に、見ず知らずの人たちが、ポンと100万の出資をしてくれた。集合時間に遅刻していたにも関わらずだ。
最初のうちは取材が入ったりして、順調だった喫茶店経営も山あり谷ありで、一時はつぶれることも覚悟していたようだ。
そんな彼を支えたのが、後に彼の奥さんとなるおりんさんの存在だろう。実は彼女も著者と同じような苦しみを抱えていた。しかし、ツイッターで知り合った池田さんを手伝うために、なんと鹿児島から東京まで、やってきたのである。おそらく何か感じるものがあったのだろう。
ともあれ、本書を読めば、のんびり生きていてもいいんだということに気をつかせてくれる。心がちょっと疲れているような人には特に勧めたい。
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