小雨、26度、96%
インドはヒンズー教の信者が多い国です。ヒンズー教では、牛は神聖な動物として扱われています。つまり食することは禁じられています。ヒンズー教の次に多いのがイスラム教徒です。イスラム教ではブタは汚らわしい動物として、やはり食することを禁じられています。つまり、インドの食事には、ブタのカレーも、牛のカレーも食卓には上りません。鶏、マトン、魚、野菜、そして多くの豆類が食材となります。
北方のインド料理を、本に教えてもらいながら作り初めて30年近くになります。インドにも4回ほど行きました。その間、私が作るインド料理は、インドの宗教上のしきたり通りに、牛肉、豚肉を使ったことがありません。考えてみると、なんとまじめな私でしょうか。牛肉は使わないといっても、神聖な牛の乳製品は、料理に使われます。ギーと言うバターに、パンニールといわれるチーズ、ダヒで知られるヨーグルト。こうした乳製品を辛みの緩衝剤として使うのが、インド料理だと一人解釈しています。
いつものように、タマネギとトマト、クミンシードでカレーのベースを作っていました。鶏肉を入れようと冷蔵庫を覗くとブタの塊しかありません。インドのしきたりを破ってブタカレーを作ることにしました。お味は、食べる前から美味しいと解っています。ヒンズー教徒でもないのに、インド式に作ったカレーを食べるのに、胸がチクンと痛みます。そこで、私は日本人だからねと、言い訳をしています。
鶏でもブタでもお豆でも、スパイスたっぷりなカレーは、日本のカレーとは趣を異にしています。ルース パベールの本に「ヒートアンドダスト」というインドを描いた本がありますが、スパイシーなインド料理は、その暑さや埃っぽさを体の中から浄化してくれるようです。
豊かになったとはいえ、貧民層がまだ厚いインドです。豊かな人たちも貧しい人たちも、彼らは一日中カレーを食べています。スパイスの微妙な入れ具合で、私のアバウトなカレーはいつも味が違います。スパイシーといえば辛いと思いがちですが、それぞれのスパイスのもつ奥行きが醸し出すインドカレーです。こうしたカレーを食べる度、スパイスの向こうに拡がるインドの懐の大きさを感じます。