雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

したり顔なるもの

2014-08-17 11:00:10 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第百七十七段  したり顔なるもの

したり顔なるもの。
正月朔に、最初に鼻ひたる人。よろしき人は、さしもなし。下臈よ。
きしろふ度の蔵人に、子なしたる人の気色。
また、除目に、その年の一の国得たる人。慶びなどいひて、
「いと賢うなりたまへり」
などいふいらへに、
「なにかは。いとことやうに亡びてはべるなれば」
などいふも、いとしたり顔なり。

また、いふ人多く、挑みたるなかに、選りて婿になりたるも、「われは」と思ひぬべし。
受領したる人の、宰相になりたるこそ、もとの君達(キンダチ)の、成り上がりたるよりも、したり顔に、け高う、いみじうは思ひためれ。


得意満面なるもの。
正月一日に、最初にくしゃみをした人。まずまずといった身分の人はそうでもありません。身分の低い者の場合です。
競争の激しい時の蔵人に、子息を任官させた人の表情。
また、除目に、その年の一番良い国の受領になれた人。誰かがお祝いなど言って、「全くお見事に就任されましたね」などと言う答えには、
「なんのなんの。たいそう尋常でないほど疲弊しているようですから」
などと言いながら、いかにも得意顔である。

また、申し込む人が多くて、張りあった中で、選ばれて婿になったのも、「どんなものだ」とでも思っているのでしょう。
受領勤めをしていた人で、昇進して参議になった人ときたら、もともと大家の御曹司で昇進した人よりも、遥かに得意気で、お高くとまり、大したものだと思っているに違いない。



最初の「鼻ひたる人」は、くしゃみが無病息災のまじないのようにもされていて、正月早々縁起が良い、ということらしい。
最期の、受領クラスから参議(宰相)に上るのはなかなか難しいことで、少納言さまも、まさにこの家柄の出身でした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする