麗しの枕草子物語
馬子にも衣装と言いますが
何と申しましてもね、肩書というものは大変なものですねぇ。
同一人物ですのに、「大夫の君」とか「侍従の君」などと申し上げている頃は、私なんかでも気楽にお話し出来たものですが、これが、「中納言」「大納言」「大臣」などになられますと、なかなかそうもいきません。それに、実際にとてもご立派に見えるのですから、肩書というものは大変なものなんですよ。
これは、何も公卿方に限ったことではなく、私たちのような受領階級であっても同じなんですよ。
「何々の守」と呼ばれている間は、下々に大きな顔は出来るとしても、やんごとない方々には地下人のようなものですが、これが、いくつかの国守を歴任して、「大弐の四位・三位」などになりますと、上達部の方々でも、一目置くようになるのですから。
人格が特に優れられたとは思えないのですが、肩書のご威光なのでしょうねぇ。
その点、女は駄目ですわねぇ・・・。
まあ、「典侍や三位」などになりますと、それなりのことはありますが、齢をとってからいただくようでは、大してうれしくはありませんわ。
受領の奥方になって任国に出向くのは、羽振りがいいそうですし、並の人でも上達部に見染められ、生まれた女の子が皇后の位にでも就かれると、それはもう大変なことなのでしょうが。
でも、やはり、女は損ですよ。
(第百七十八段・位こそ・・、より)