雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

成功と失敗の分かれ目 ・ 小さな小さな物語 ( 903 )

2017-04-22 13:43:28 | 小さな小さな物語 第十六部
成功と失敗には、分かれ目があると思うのですが、それはどのような姿をしているのでしょうか。
成功は、時には「功成り名を遂げる」という状況を生み出し、失敗は、時には、「尾羽うち枯らす」といった惨憺たる姿に陥ることもあります。
例えば、同時に出発した二人が、一人は成功者となり、一人は失敗者となることがあるとすれば、その分かれ目、つまり二人を右と左に振り分けた時点があるはずではないでしょうか。
「いや、いや、成功だ、失敗だというものは、日頃の積み重ねであって、ある一瞬で区分けされるものではないよ」という声を聞いたことがあります。その意見に反論するわけではないのですが、成功した人にはその切っ掛けとなったもの、失敗した人にもその切っ掛けとなったものがあるのではないかと思うのです。

ただ、そもそも、成功だ、失敗だといっても、それは何をもって判別するのか、また、どの時点で判断するのかによって、様子はずいぶん違ってきます。
また、誰が判断するのかということがあります。世間では、「彼は成功者だ」といったことを話しているのを聞くことが、ままあります。「彼は失敗者だ」と、ずばり言うのはあまり聞きませんが、少しぼかした言い方は、やはり耳にすることがあります。
しかし、それらの判断は、たいていが酒の肴の類のようなもので、あまり正確とはいえない気がするのです。もっとも、酒の肴のようなものにむきになることはないのでしょうが。

ずいぶん前のことですが、ある中小企業の経営者から話を聞く機会がありました。そのお方は、一代で小さいながらも優良企業と評価される会社を育て上げ、相当の財を成し、業界の役員に就くなど、自他ともに成功者の部類に入ると見られている人物でした。
その人がこんな話をしてくれたことがありました。「結局、何が成功かと言えば、どこかの時点で自分自身で納得するしか決めることができないと思う。反対に、何が失敗かと言えば、『失敗した』と思った時点で失敗は成立してしまう。つまり、自分が失敗したと思わない限り、失敗ではないということだ。私は、これまでに大損は何度もしたが、失敗は一度だってしていない」と言って、豪快に笑っておられたのを思い出します。

私は、この話を時々思いだします。実を申しますと、他のルートでも同じような話を聞いたことがありますので、果たして、その経営者の話が実体験からきたものかどうかは少々疑わしいのですが、一つの示唆を与えてくれていると思うのです。
一方で、人生を決定づけるような成功・失敗は別にして、私たちの日常生活では、毎日のように成功・失敗を繰り返しているような気がするのです。その分かれ目、つまり判断の分岐点らしいものは、後から考えれば大体わかることが多いのですが、不思議なことに、その反省はほとんど役に立たないように思うのです。何度でも同じような失敗を繰り返しますし、数少ない成功は、もともと自分の実力だと思ってしまい、これまた後々に役には立たないのです。その傾向は、私ほどではないにしても、結構多くの人が経験しているようです。
そうした多くの経験を無駄にしながらも、「これは」という経験則が一つあります。それは、日常生活の失敗らしきものは、出来るだけ早く認めてしまうことが傷を小さくするらしいということです。
「だから君は駄目なんだ」という、ご高説を教示してくださった経営者の声が聞こえてきそうです。

( 2016.10.21 )

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