麗しの枕草子物語
忍ぶ逢瀬
この邸の主である女性の部屋の釣燈籠には火が灯され、そこから二間ほど離れた辺り、簾を高く上げて、女房二人ばかりに童女などが下長押に寄りかかり、あるいは下した簾に添うようにして横になったりしている。
火取香炉に火を深く埋めて、ほのかな香りが漂っているのも、ゆったりとして奥ゆかしい。
宵を少し過ぎた頃、忍びやかに門をたたく音がすると、事情をよく心得たいつもの女房が出てきて、素早く自分の身体で男を隠し、人目を警戒しながら招じ入れる。
男とこの邸の女性との傍らには、作りが良くすばらしい音色を出す琵琶が置かれているのを、男は手に取り、話の合い間合い間に、音を殺して、爪弾きに掻き鳴らしたりしている。
やがて、夜は更けてゆく。
(第百八十三段・南ならずば・・、より)