週間予報では雨天のはずだった自然観察会の日。
ryu先生が久しぶりに参加されたこともあってこの日は雨がない。
どこへ行ってもなぜか雨が降らないという先生。
そのありがたさを受ける参加保護者会は17人。
スタッフも同数の17人で、ちょうどいいぐらいの人たちは昨年もやってきたヤマボウシの白い花が咲く正暦寺の駐車場に集まった。
平野部では6月に入ったころにヤマボウシの花が咲いていた。
そのひと月前にはハナミズキが春を彩っていた。
同じミズキの仲間だけに花はとても似ているが、ハナミズキは北アメリカ原産で花先は丸っこく白やピンクもあって華やか。
それに対して初夏に咲くヤマボウシは日本などを含むアジア産で先は尖がっている。
その花を見たくて植えたという丹生町に住む婦人。
7年もかかってやっと咲いてくれたと話す。
それはともかくこの日の観察会は雨降り模様を気にかけながら始まった。
出発の際には一昨日にryu先生が採取されたゴマダラチョウ標本を拝見する。
生きていたものではなくて死体を標本されたもの。
この蝶が生息している地域にはエノキの木があるらしい。
そう、エノキがあれば都市部であっても見られるのだ。
野神さんの行事ではエノキの木に蛇綱を掛ける地域がある。
そのエノキのゴマダラ・・・見たいものだがそれは幼虫。
若い葉っぱが喰われていたらそこにはゴマダラがいるということになるようだ。
そのゴマダラは脚が4本だそうだ。
昆虫なら脚は6本なのに・・・なんでと思いきや前脚の2本は小さく畳んでいるから隠れて見えない。
退化したんでしょうか。
ちなみに東大寺大仏殿にある青銅製の造作アゲハチョウの脚は8本もあるらしい。
集合までの時間帯に捕虫網で採ったオサムシは器に入れられた。
ゴミムシの仲間ででっかく脚は長い。
後ろ翅が退化して飛べない昆虫は歩いて移動する。
ということは生息地がそれほど広がらない。
それはミミズまで食べてしまう肉食系。
だから分泌物質が臭いといわれるオサムシ。
そう、その名はオサムシ好きであったことからペンネームにされた手塚治虫。
ちょうどブッダの映画が上映されている。
その場ではイシガケチョウも採取された。
文様はまさに石垣の様相だが見方によってはクモの巣のようにも見える。
平成21年に訪れたこの地域で再び目にしたのだ。
南方系のイシガケチョウはこの地で越冬、生息しているのだろうか。
同じ場所の駐車場ではウラギンシジミも飛んでいた。
翅を閉じれば渋い銀の色。
裏面はそうだが広げた内面の色はまったく違う。
まさにウラギンであるがなかなか閉じてくれない。
白花のオドリコソウ。
その名のごとくまるで何人かの踊り子さんが笠を被って円舞を演じているかのように見える。
その反対側にはヤワゲフウロが咲いていた。
ヨーロッパ原産の花は1977年に大阪で発見された帰化植物。
千早赤阪を越えて金剛山麓、山辺の道まで浸食しているらしい。
モンキアゲハは住民の家の庭に飛んでいったので見届けることができなかった。
その住民が出てこられてO先生はどこですかと尋ねられた。
そう、先生はかつてここで学習されていた。
久しく合う人との立ち話になったことはいうまでもない。
さて、そのモンキアゲハは日本で最大級のアゲハチョウ。
黒い文様はすぐにわかる。
ご主人の奥さんは「ゴクラクチョウ」と言った。
そう、当地ではサンコウチョウのことをそう呼んでいるのだ。
その鳴き声は聞けなかったが多種多様な自然の姿が満喫できる山間部。
田んぼの稲はすくすくと育っている。
かつては牛を飼っていたともう一軒のご夫婦が仰った。
悪さをして親に叱られたときに「牛小屋に入れてやる」と言われたことを思い出された。
その夫妻、当日は上のほうの畑にトマトを植えるだんどりをされていて、来週には天理の西井戸町で田植えをするらしい。
それはここからずいぶんと遠い遠隔地。
車で行く場合でも時間がかかる。
4、50年も前はどうして行ったのだろうか。
そのような会話を経て足取りは急な坂道を登っていった。
そこにはオオスズメバチが木に止まっていた。
子供たちがいるだけに危険は避けなければならないが、その10cm下にはヒカゲチョウもいた。
撮ったときには判らなかったがどうもクヌギの樹液を吸っているようだ。
その木の裏側にはコクワガタもいた。
さらに上へと進めば林のなかに咲くイチヤクソウがあった。
傍らには昨年に咲いたと思われるものが立っている。
同じ場所だが絶対に採ってほしくない大切な植物だ。
山の植物は家では育たない。
この地であるから生息できるのである。
心ない人の手によって絶滅した事例はたくさんある。
ササユリもそうだ。
何年か前の下見の際に矢田丘陵で発見したことがある。
ところが一週間後には消えていたのである。
こうした記述はしたくないのが本音であるのだが・・・ササユリ・・・望遠鏡で探してみよう。
ユキノシタは川沿いに咲いている。
湿ったところに生育するユキノシタは五花弁のダイモンジソウの仲間。
それはないが家の庭でよくみかけるユキノシタ。
園芸種なのであろうか。
オトシブミはところどころで見かけるが驚いたのはツチアケビだった。
平成19年の曽爾での観察会以来だ。
その翌年には消えていたツチアケビ。
あっちこっちに握り手が伸びているように見える。
ランの仲間でも葉緑素をもたない腐生植物で葉はない。
一週間もすれば花が咲くことであろうが曽爾の二の舞にはなってほしくない。
このツチアケビは予想通り21日ころにはラン科特有の花を魅せる。
その後は真っ赤なウインナーソーセージのようになるのですとウメちゃん、やまちゃん先生が確認してくれた。
感謝でありまする。
赤いお腹が美しいアカハライモリの♀。
こんな上の田んぼまでやってきたんだ。
それほどに水がきれいということだろう。
オタマジャクも小さな水槽に入れて観察した。
そうした器で観察はしやすいが撮影となると・・・。
オサムシに混じっていつのまにかベニカミキリが増えている。
触角が長いから♂だろう。
縁が黒けりゃヘリグロカミキリだがそれではないようだ。
上流から流れる水は早い。
その水路にオニヤンマのヤゴ(一年生)やひらたヒラタカゲロウもいた。
花といえばニワフジもタツナミソウも咲いている。
雑木林にはニワトコの赤い実やヤブムラサキの花が咲き、アマガエルが葉っぱに止まっていた。
アマガエルはジャンプ力がすごい。
こんなところにも跳んでいくのだ。
そのニホンアマガエルの脚は吸盤をもっている。
ガラス面でもぺっちゃりくっつく脚はこのようになる。
赤い実がたくさんぶら下がっているのはウグイスカズラの実。
一か月ほど前に咲いた漏斗状のピンク色の花は実になる。
ウグイスがその花や実を食べる姿が神楽を舞っているように見えることからその名がついたとされるが・・・。
赤く熟した実は口にいれるとジュワっと甘い汁がでる。
それはなんともいえない甘さであり、子供も大人もついばむほど美味い。
その向こうにいたのが小さなトンボ。
ではなくアブ(ムシヒキアブ科のシオヤアブの♀)。
干からびていた姿は飛んでいったので驚いたものだ。
撮っているときには気がつかなかったがなにやら脚で掴んでいるのは小さなバッタのようだけに肉食性であることがよく判る。
カギバの仲間は種類が多い。
その姿は枯れ葉のようで見えないステルス爆撃飛行機のような形だ。
その他にもヤマカガシ、ホソミオツネントンボ、カワトンボ、モリノアブラムシ、アメンボ、ゾウムシ、テングチョウ、ヤマトシジミ、アリグモ、ウズグモ・コガネグモの巣文様、マムシグサ、ヤブマオなどなど。
そうそうカンオアイの花も見つけたことを記しておこう。
私は大宇陀の行事取材があるので途中で失礼させていただいたが、雨にも遭遇せず、さまざまな観察物に出会えた山間部は素晴らしい環境にあると思う。
(H23. 6.12 EOS40D撮影)