小湊鉄道 「上総久保(かずさくぼ)」駅

地方道81号線から少し入ったところに、ぽつんと畑に囲まれてその駅はあった。駅への進入路は、新しい人家の横に車がやっと一台通れる幅しかないところだった。車を停めたとたん、その横を下り電車がゆっくりと構内に入って停まった。乗る人も降りる人もいなかった。それでも電車は停車して再び動き出した。


駅には出札口はなく屋根のついたベンチがあるだけだった。一番新しいのがNTTの公衆電話ボックスで、携帯電話時代でも撤去できない理由でもあるのだろうか。ふとそんなことを思った。

まばらな人家を無視すれば、真っ直ぐ伸びている線路からは映画ゲイリー・クーパー、グレイス・ケリーの「ハイヌーン」の一場面を思い出す。まさに西部劇の世界だ。保安官ゲイリー・クーパーと対決するためやってきた無法者二人。白黒の音のない映像。無法者がボスを待つ所作のないシーン。しかし、ここは誰もいない。
