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べたべたと纏わりつかない愛を描く映画「君と歩く世界」

2013-11-06 16:25:18 | 映画

                  
 これほど冷静に誇張もなく家族の愛や男女の愛を描いた作品にお目にかかったことがない。しかも物語の展開に概ねムリがないし、矛盾も少ない。どこにでもある貧しい父子とその父との恋人の話だ。

 アリ(マティス・スーナールツ)とその5歳の息子サムは、アリの姉の家に転がり込んだ。姉アナはスーパーのレジ係で収入を得ている。夫もささやかな運送業を営んでいる。決して裕福とは言えない。どうやらアリの元妻は、息子に麻薬を運ばせていたようでアリはそこから抜け出したのだろう。
 なけなしの金は、食料まで手が届かない。列車で姉の家に向かう車中、座席の残り物を漁る始末。

 アリは警備会社に就職した。ボクシングの経験もありナイトクラブの警備に当たっているとき、喧嘩をしたのか倒れて鼻血を出している女を助け起こしアパートまで送っていった。その女は、シャチの調教師でステファニー(マリオン・コティヤール)と言った。

 そのステファニーがシャチの演技中の事故で、膝から下の両脚切断という生きる希望を木っ端微塵に砕かれる。鬱々とした日々が過ぎる中、人恋しさもあったのか、アリが残した電話番号をプッシュした。頼みは何でも聞いてくれた。

 海岸へ連れて行ってくれたが、ステファニーを残して勝手に泳ぎ回った。ステファニーにとっては、要らぬ気遣いがないだけ気楽に過ごせた。仲の良い友達同士。昼下がりの何気ない会話がいきなりセックスへと導く。お互いの過去の女性関係や男性関係を話すうち、ステファニーは「感覚も忘れたわ。まだ、機能するかしら」このきわどいセリフが、アリの率直な言葉「ヤるか?」につながり、「いきなり?  そんな風に言われても……」「イヤならいいよ」しかし、ステファニーはヤッてしまった。感覚も機能も充分だった。ステファニーの顔に希望の光が点ったようだ。が、恋愛感情には程遠いものだった。

 悪いことにアリと息子サムは、結氷した池で遊ぶうちサムが割れ目から転落する。氷の下を漂うわが息子。必死で素手で氷を割り病院へ。3時間の昏睡状態を経て蘇生する。一時アリは絶望の淵に追いやられた。これほど不安で恐ろしいことはなかった。無敵のストリートファイターのアリでも、なす術のない状況には手も足も出ない。

 そのとき携帯が鳴った。ステファニーからだった。これほどステファニーを身近に感じたことはなかった。自然に「見捨てないでくれ、愛しているよ」と言っていた。極上のラヴ・ストーリー。2013年4月劇場公開のフランス映画。
            
            
            
            
監督
ジャック・オーディアール

キャスト
マリオン・コティヤール1975年9月パリ生まれ。’07「エディット・ピアフ~愛の賛歌」でアカデミー主演女優賞受賞。
マティアス・スーナールツ1979年12月ベルギー生まれ。
コメント
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