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映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」女性の勇気を称える

2018-10-24 13:17:59 | 映画

           
 ペンタゴン・ペーパーズとは、ベトナム戦争を分析・記録したアメリカ国防総省の最高機密文書を指す。ニクソン政権下の1971年、この文書が密かに外部に持ち出されニューヨーク・タイムズの特ダネ記事となった。

 持ち出したのは軍隊経験もありベトナムの戦場も経験している軍事アナリストのダニエル・エルズバーグ(マシュー・リス)で、国防長官のロバート・マクナマラ(ブルース・グリーンウッド)の元でベトナム戦争の実態を示す報告書を作っていた。マクナマラも内心、政府が戦争の実情を隠ぺいしているのを知っていながら、報道陣には政府の見解を説明している。義憤を感じたであろうエルズバーグが、勤務先のシンクタンク・ランド研究所から膨大な報告書を富士ゼロックス製の大型のコピー機を使ってコピーした。それをニューヨーク・タイムズに流した。

 その紙面を見たワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は、事の重大さを理解してニューヨーク・タイムズが掲載していない部分を手に入れようとした。社主のキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)に、昔から親しくしているマクナマラ国防長官から残りを手に入れたいと言ったが、友人を裏切りたくないと言って拒否される。

 方策を考えているとき、偶然にも見知らぬ若い女性から、求める文書が届けられる。しかし、この文書もニューヨーク・タイムズに先を越されてしまう。

 さて、どうするか。ニューズウィークから引き抜かれワシントン・ポストにやって来たベン・ブラッドリーの血が騒ぐ。編集局次長のベン・バクディキアン(ボブ・オデンカーク)がランド研究所に勤務していたこともあって、ペンタゴン・ペーパーズをリークしたエルズバーグと同僚だった。ベンは研究所を退職したエルズバーグを探し始める。それも公衆電話を使って。

 ようやく探し当て、指定のモーテルに行くと膨大な資料が山となっていた。エルズバーグが言う「秘密工作、債務保証、不正選挙。それらを実行したアイゼンハワーやケネディ、ジョンソンと言う大統領たち。ジュネーブ協定違反、議会や国民へのウソ。勝てないと知りながら若者を戦場へ。ニクソンは路線を継承している。理由は戦争に負けた大統領になるのを恐れて。

 ある時ある人が言った。「負けると知りながらなぜ続けるのか。10%南ベトナム支援、20%共産主義の抑止、70%アメリカ敗北と言う不名誉を避けるため。戦場へ送った若者の70%は不名誉を避けるためだけ?衝撃だった」

 それらの資料をベン・ブラッドリーの自宅へ運び込んだ。記者たちがバラバラのものをつなぎ合わせる作業に没頭した。完成すれば記事にするつもりのベン。しかし、それにはキャサリンの許可がいる。

 キャサリンには社の株式公開と言う重要案件を抱えていて、記事公開による影響も考慮しないといけない。2度リーク記事を掲載したニューヨーク・タイムズは、政府から記事の差し止めを要請されていることもあり、差し止め命令が出れば法律違反になるとベンにも言い彼女にも重荷となる。

 ベンは突っ走っていた。輪転機のスイッチを押せばいいという段階にまで来ていた。多くの役員や顧問弁護士はあらゆる法律違反を犯すことになるとして記事の掲載に反対した。キャサリン・グラハムが初めて毅然とし大仕事を決断する時が来た。ざわつく部屋の中で「父の会社でも、夫の会社でもない。私の会社です。記事を掲載しなさい」

 ベンに向かって妻のトニー(サラ・ポールソン)が言う。「ケイ(キャサリンの愛称)は、想像しなかった立場にいるのよ。“ふさわしくない”と皆に思われている。何度となく”能力がない”と言われ、意見は軽んじられる。まともに相手にされず、存在しないも同じ。そんな日々が続けば”違う”と言えなくなる。この決断を下すのは彼女の財産や人生そのものの新聞社を賭けること。とても勇敢だと思う」

 輪転機がうなりをあげ出来上がった新聞をトラックが列をなして読者に届けた。驚いたことに他社も追随した。ワシントン・ポストにとって唯一のよりどころが、アメリカ合衆国憲法修正第1条の報道の自由を妨げる法律を制定禁止条項だ。

 連邦最高裁に持ち込まれキャサリンらはニューヨーク・タイムズとも協力して対処した。結果は6対3で報道側の勝利となった。

 判事の一人ブラック判事の意見「建国の父たちは報道の自由に保護を与えた。民主主義における基本的役割を果たすためだ。報道が仕えるべきは国民だ。統治者ではない」

 ニクソン大統領は、ワシントン・ポストを出入り禁止にしたが、同紙のウオーターゲート事件の報道で失脚した。

 なんと言ってもこの映画で特筆すべきは、キャサリン・グラハムの勇気ある決断だ。そのキャサリンを演じたメリル・ストリープの電話口で伝えるゴーサインの口調はさすがと言わざるを得ない。

 このときのキャサリンの下手をすればすべてを失うという恐怖と戦いながら決断する気持ちをおもんばかってあの表情になったのだろう。かすかに声を震わせる演技は見事。

 キャサリン・グラハム、ベン・ブラッドリー、ベン・バクディキアン、ダニエル・エルズバーグなど実在した人たちの熱い思いが伝わってくる。

 キャサリン・グラハムの行動は、アメリカ女性に力を与えたようで女性の地位向上に貢献したと言える。連邦準備制度理事会の第5代議長を務めたユージン・メイヤーの娘として生まれ、夫の自殺によって転がりこんだ思わぬ重責に戸惑ったが、多くの男たちにも出来ない決断を成し遂げたキャサリン・グラハム。これは女性の映画だ。原題「THE POST」2017年制作
  
  
  
監督
スティーヴン・スピルバーグ1946年12月オハイオ州シンシナティ生まれ。1993年「シンドラーのリスト」1998年「プライベート・ライアン」でアカデミー賞監督賞を受賞。

キャスト
メリル・ストリープ1949年6月ニュージャージー州生まれ。2011年「マーガレット・サッチャー鉄の女の涙」アカデミー賞主演女優賞受賞。他に毎年のように主演女優賞にノミネートされる。
トム・ハンクス1956年7月カリフォルニア州コンコード生まれ。1993年「フィラデルフィア」1994年「フォレスト・ガンプ/一期一会」でアカデミー賞主演男優賞受賞。
サラ・ポールソン1974年12月フロリダ州タンパ生まれ。
ボブ・オデンカーク1962年10月イリノイ州生まれ。