京都在住、イギリス出身でもとゴールドマン・サックスのアナリストで観光立国を提唱する。漆塗りを生業とする小西美術工藝社の社長に請われ就任。
全体に、戦術立案はあるのだが、観光客や観光施設所有者、行政、コミュニティにどう満足してもらうかの戦略が薄い。我が国の観光施設の独自性は次の二点だ。
1.マクロ:アメニティとは、イギリス発祥で産業革命にともなう長時間労働を癒す歴史物や自然を保存したのが発祥
我が国では神社仏閣が観光施設となっても周辺の森や神山や名木の自然が主体では。これを手入れする費用・人工は多きく氏子、檀家の支援が不可欠だ。本著では観光施設の漆塗りなどに傾斜しているが、木を見て森を見ずの感が否めない
2.記号論としての変遷:かつてのパヴィリオンの社寺もいまは「枯れた姿」が定着。丹塗りの派手な「当時」から神仏と社会の関わりが変容、つまりはSignifiant Signifie ( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8B%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%82%B7%E3%83%8B%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A8 )の関係の変容だ。現代の社寺に、丹塗りや漆塗りは本当に必要なのだろうか。むしろ、伊勢神宮の遷宮など様式を伝える建て替えが、伝統の維持と施設の永続性、産業育成につながっている。
役に立つ知見もある
・解説・特別・高額化は誘致と経営のため→一つ間違うとラーメン屋の「高額限定」のSNS解説になる懸念も
・ガイド、体験、生活展示→これこそ教育
・施設維持のため入場無料が有料に→好ましくない入場者の排除のためでは
大英帝国博物館、ルーブル美術館やアメリカのメトロポリタン(MET)やボストン博物館(MFA)は1日でも見切れない観光拠点。日本では、このスケールの施設がない。群としてまとめ、地勢、歴史、様式、生活などをとりまとめたチケットとガイド体制整備にするのが望ましいのでは。教育にも、対話にもなる。例えば、エリアチケットには、ガイドブックを用意し、見どころ、体験どことを明記する。現地では、「生活体験」と「文化解説」を重視する。体験で壊れた家具の修理すら見世物になる。これらはアメリカのNational Park Service でも行われている。
日本でも National Park Service のような組織が欲しい。Lowellの水力紡績工場と運河の見学体験は忘れられない。( https://www.nps.gov/lowe/index.htm )
本著は考えが表層的だ。観光は、施設・運営者とコミュニティで面白さが決まり、産業政策として公共資金や政策で協力するのが基本だ。