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「史上最強の制裁」を科せられるイラン。中東では新たな戦争が勃発するか?
2019.05.12 一般 アメリカ, イラン, 中東, 戦争
今、日本人はアメリカ主導による北朝鮮への経済制裁に注目して、追い込まれていく北朝鮮の行方に注目している。しかし、経済制裁されているのは北朝鮮だけではない。
アメリカは、2019年5月1日よりイランに対して経済制裁をより厳しいものにしている。5月1日に何があったのか。「イラン原油全面禁輸」である。
アメリカは2018年11月からイランに対して原油輸出の制裁を行っているのだが、イランからの石油が全面的に禁輸されると、大きな影響を受ける同盟国もあるので8カ国については半年間の「制裁適用除外」を認めていた。
その8カ国というのは、日本・中国・韓国・インド・台湾・トルコ・イタリア・ギリシャである。アメリカはかねてから「この適用除外は一時的なものであり、半年以内に禁輸の準備をしなければならない」と通達していた。
それが、いよいよ4月30日に切れて、イラン産原油はグローバル社会では一切「輸出・輸入」ができなくなってしまった。もし、これに不服でこのままイランとの石油取引を続けていると、その国もまた経済制裁の対象となる。
「イランと関わる国は慎重を期すべきだ」とポンペオ米国務長官は激しい言葉で世界の国々を牽制している。これによってイラン経済は大ダメージを受けることになる。(鈴木傾城)
イランに対する経済制裁
真っ先に影響を受けるのは、経済制裁が強化されたイランだが、グローバル社会は無傷ではない。
これから何が起きるのか、教科書的に解説すると以下のようになる。
イランは原油埋蔵量が世界4位である。この部分が欠けると石油の供給量が減る。しかし、サウジは増産に慎重である。
そのため、このままでは2019年の後半にかけて石油価格が上昇していく可能性がある。石油価格が上昇すると全世界で生活コストが上がっていく。つまりインフレが世界規模で起きる。
インフレが起きると消費が確実に萎んでいく。そのため、石油価格の上昇は景気の悪化を招く。景気が悪化すると企業の売上が減るので、最終的には株価にそれが織り込まれていく。
つまり、今後は右肩上がりに上がってきたアメリカの株式市場も下落を見ることになる可能性が高まる。
教科書的な解説では、このようなものになる。ただ、こうした事象を見越して様々な機関が防衛に動くので、必ずしも現実は教科書的な動きをするわけではない。
またアメリカとイランの対立も、先鋭化や緩和が何度も何度もうねって状況は二転三転するのが普通なので、ここでも教科書的な動き通りに「石油禁輸=株価下落」という流れになるわけでもない。
ただ、将来的には石油価格の上昇が見込まれている場合は、往々にして景気悪化が鮮明になる。そのため、アメリカ主導によるイランの経済制裁は、私たちには対岸の火事ではない。
場合によっては、もっと悪いことになっていくかもしれない。
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「史上最強の制裁」に入っていく
イランの石油の最大の輸入国は中国である。アメリカは中国に対して2019年5月10日から25%の報復関税をかけているのだが、中国はこのアメリカの報復関税とプラスしてイランの石油禁輸の往復ビンタで影響を受けることになる。
中国経済は2019年後半から、世界が想像している以上に失速していたとしても私は驚かない。
もっとも、5月1日より一気に追い込まれていくのは当事者であるイランである。イランは2019年5月1日から、トランプ大統領が言う「史上最強の制裁」に入っていくことになる。
「史上最強の制裁」というのは、トランプ大統領の誇大宣言ではない。イランにとっては本当に苛烈極まりない制裁である。というのも、原油の輸出がイランの国家歳入の約6割を占めているからである。
分かりやすく言うと、イランは「2019年5月1日から収入が6割も減ってしまう」ということになるのだ。これが大きな経済的ダメージになってしまうのは、誰が考えても分かる話だ。
イランは2016年に核開発制限を受け入れる代わりに経済制裁の緩和を求めていて、それが今まで続いていたのだが、アメリカが一方的にイランに「史上最強の制裁」をするのであれば、イランが核開発の制限をいつまでも続ける意味はない。
しかし、イランが核開発を堂々と進めていくと、今度は核の標的になるイスラエルが黙っていないわけで、イランの「核開発」の動きによっては、中東は一気に戦争前夜の緊迫化に向かっていく。
アメリカはこれを見越して、2019年4月にイランの精鋭部隊である「革命防衛隊」をテロ指定している。どういう意味か。
それは、イランとアメリカが軍事的な衝突にまで突き進むと、それはアメリカにとって「テロとの戦い」という大義名分を手に入れることになるということだ。
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イランは持ち堪えるか、暴発するか
2019年5月9日。ニューズウィーク紙は、このアメリカとイランの対立に対して『イラン戦争に突き進むアメリカ』という記事を出している。そこでは強硬派であるジョン・ボルトン米大統領補佐官が5月5日にこのように発言したと書かれている。
『(アメリカは)イランと戦争をするつもりはないが、あらゆる攻撃に対応できる十分な用意がある』
これは、「アメリカはいつでも戦争できる」という脅しだろうか。アメリカの高官のこうした発言は、脅しで終わらない可能性があるのは、全世界の人間が知っている通りだ。
現に、アメリカは輸送揚陸艦アーリントンを中東地域へ派遣する方針を明らかにしており、地対空ミサイル「パトリオット」も追加配備された。
2003年、アメリカはイラク攻撃を行ってサダム・フセイン大統領を排除し、イラクを完全崩壊させたが、アメリカは「イラクが大量破壊兵器を持っている」と喧伝してイラクを叩き潰しに行った。
その後、アメリカの言う「大量破壊兵器」はどこにもなかったことが判明したのだが、その時はもうイラクは完全に崩壊してしまっていた。イラクと同じことが今回のイラン情勢で起きないとは誰にも言えない。
イランは原油が完全に禁輸されるという史上空前の経済制裁を食らっているわけで、イラン経済は崩壊してしまうのは避けられない状況に達してしまっている。
イランは生き残るために苦しまぎれに核開発を進めたり、ホルムズ海峡を閉鎖したり、ペルシャ湾からミサイルを発射したり、武装勢力を使ってアメリカに対して何らかのテロ攻撃を行ったら、情勢は一気に戦争へと向かっていく。
2019年5月1日から、アメリカとイランを巡る緊迫はひとつ上のレベルに達した。追い詰められたイランは持ち堪えるか、暴発するか。場合によっては、新たな戦争がイランを舞台に起きる覚悟を私たちはしておかなければならない時がきた。(written by 鈴木傾城)
「史上最強の制裁」を科せられるイラン。中東では新たな戦争が勃発するか?
2019.05.12 一般 アメリカ, イラン, 中東, 戦争
今、日本人はアメリカ主導による北朝鮮への経済制裁に注目して、追い込まれていく北朝鮮の行方に注目している。しかし、経済制裁されているのは北朝鮮だけではない。
アメリカは、2019年5月1日よりイランに対して経済制裁をより厳しいものにしている。5月1日に何があったのか。「イラン原油全面禁輸」である。
アメリカは2018年11月からイランに対して原油輸出の制裁を行っているのだが、イランからの石油が全面的に禁輸されると、大きな影響を受ける同盟国もあるので8カ国については半年間の「制裁適用除外」を認めていた。
その8カ国というのは、日本・中国・韓国・インド・台湾・トルコ・イタリア・ギリシャである。アメリカはかねてから「この適用除外は一時的なものであり、半年以内に禁輸の準備をしなければならない」と通達していた。
それが、いよいよ4月30日に切れて、イラン産原油はグローバル社会では一切「輸出・輸入」ができなくなってしまった。もし、これに不服でこのままイランとの石油取引を続けていると、その国もまた経済制裁の対象となる。
「イランと関わる国は慎重を期すべきだ」とポンペオ米国務長官は激しい言葉で世界の国々を牽制している。これによってイラン経済は大ダメージを受けることになる。(鈴木傾城)
イランに対する経済制裁
真っ先に影響を受けるのは、経済制裁が強化されたイランだが、グローバル社会は無傷ではない。
これから何が起きるのか、教科書的に解説すると以下のようになる。
イランは原油埋蔵量が世界4位である。この部分が欠けると石油の供給量が減る。しかし、サウジは増産に慎重である。
そのため、このままでは2019年の後半にかけて石油価格が上昇していく可能性がある。石油価格が上昇すると全世界で生活コストが上がっていく。つまりインフレが世界規模で起きる。
インフレが起きると消費が確実に萎んでいく。そのため、石油価格の上昇は景気の悪化を招く。景気が悪化すると企業の売上が減るので、最終的には株価にそれが織り込まれていく。
つまり、今後は右肩上がりに上がってきたアメリカの株式市場も下落を見ることになる可能性が高まる。
教科書的な解説では、このようなものになる。ただ、こうした事象を見越して様々な機関が防衛に動くので、必ずしも現実は教科書的な動きをするわけではない。
またアメリカとイランの対立も、先鋭化や緩和が何度も何度もうねって状況は二転三転するのが普通なので、ここでも教科書的な動き通りに「石油禁輸=株価下落」という流れになるわけでもない。
ただ、将来的には石油価格の上昇が見込まれている場合は、往々にして景気悪化が鮮明になる。そのため、アメリカ主導によるイランの経済制裁は、私たちには対岸の火事ではない。
場合によっては、もっと悪いことになっていくかもしれない。
ブラックアジアでは有料会員を募集しています。よりディープな世界へお越し下さい。
「史上最強の制裁」に入っていく
イランの石油の最大の輸入国は中国である。アメリカは中国に対して2019年5月10日から25%の報復関税をかけているのだが、中国はこのアメリカの報復関税とプラスしてイランの石油禁輸の往復ビンタで影響を受けることになる。
中国経済は2019年後半から、世界が想像している以上に失速していたとしても私は驚かない。
もっとも、5月1日より一気に追い込まれていくのは当事者であるイランである。イランは2019年5月1日から、トランプ大統領が言う「史上最強の制裁」に入っていくことになる。
「史上最強の制裁」というのは、トランプ大統領の誇大宣言ではない。イランにとっては本当に苛烈極まりない制裁である。というのも、原油の輸出がイランの国家歳入の約6割を占めているからである。
分かりやすく言うと、イランは「2019年5月1日から収入が6割も減ってしまう」ということになるのだ。これが大きな経済的ダメージになってしまうのは、誰が考えても分かる話だ。
イランは2016年に核開発制限を受け入れる代わりに経済制裁の緩和を求めていて、それが今まで続いていたのだが、アメリカが一方的にイランに「史上最強の制裁」をするのであれば、イランが核開発の制限をいつまでも続ける意味はない。
しかし、イランが核開発を堂々と進めていくと、今度は核の標的になるイスラエルが黙っていないわけで、イランの「核開発」の動きによっては、中東は一気に戦争前夜の緊迫化に向かっていく。
アメリカはこれを見越して、2019年4月にイランの精鋭部隊である「革命防衛隊」をテロ指定している。どういう意味か。
それは、イランとアメリカが軍事的な衝突にまで突き進むと、それはアメリカにとって「テロとの戦い」という大義名分を手に入れることになるということだ。
地獄のようなインド売春地帯を描写した小説『コルカタ売春地帯』はこちらから
イランは持ち堪えるか、暴発するか
2019年5月9日。ニューズウィーク紙は、このアメリカとイランの対立に対して『イラン戦争に突き進むアメリカ』という記事を出している。そこでは強硬派であるジョン・ボルトン米大統領補佐官が5月5日にこのように発言したと書かれている。
『(アメリカは)イランと戦争をするつもりはないが、あらゆる攻撃に対応できる十分な用意がある』
これは、「アメリカはいつでも戦争できる」という脅しだろうか。アメリカの高官のこうした発言は、脅しで終わらない可能性があるのは、全世界の人間が知っている通りだ。
現に、アメリカは輸送揚陸艦アーリントンを中東地域へ派遣する方針を明らかにしており、地対空ミサイル「パトリオット」も追加配備された。
2003年、アメリカはイラク攻撃を行ってサダム・フセイン大統領を排除し、イラクを完全崩壊させたが、アメリカは「イラクが大量破壊兵器を持っている」と喧伝してイラクを叩き潰しに行った。
その後、アメリカの言う「大量破壊兵器」はどこにもなかったことが判明したのだが、その時はもうイラクは完全に崩壊してしまっていた。イラクと同じことが今回のイラン情勢で起きないとは誰にも言えない。
イランは原油が完全に禁輸されるという史上空前の経済制裁を食らっているわけで、イラン経済は崩壊してしまうのは避けられない状況に達してしまっている。
イランは生き残るために苦しまぎれに核開発を進めたり、ホルムズ海峡を閉鎖したり、ペルシャ湾からミサイルを発射したり、武装勢力を使ってアメリカに対して何らかのテロ攻撃を行ったら、情勢は一気に戦争へと向かっていく。
2019年5月1日から、アメリカとイランを巡る緊迫はひとつ上のレベルに達した。追い詰められたイランは持ち堪えるか、暴発するか。場合によっては、新たな戦争がイランを舞台に起きる覚悟を私たちはしておかなければならない時がきた。(written by 鈴木傾城)