フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

7月4日(水) 小雨

2007-07-05 02:25:54 | Weblog
  大学へ向かう電車の中で非参与観察を行なう。非参与観察とは参与観察の反対で、観察する対象(この場合は乗客たち)にコミットすることなく(自分の存在が対象に与える影響を最小限に抑えつつ)観察する方法である。平たく言えば、車内の乗客たちをながめるということなのだが、漫然とながめるのではなく、彼らの立ち居振る舞いに何らかの特徴や傾向性を発見しようとして意識的にながめるのである(もちろん特定の個人を凝視するというようなのはNGで、あくまでも何気ない感じでながめるのである)。蒲田始発の電車だったので、つり革につかまって立っている乗客はほとんどなく、対面のシートに座っている7人の乗客(男性6人、女性1人)の様子がよく観察できた。着目したのは傘の持ち方・置き方である。シートに座ったときの傘の扱いというのは面倒なところがある。運よくシートの両端に座れれば、うまい具合に傘の柄を掛ける場所(手すりの部分の金属のフレーム)があるが、中間の席の場合はそれがない。今回、中間の席に座った5人のうち傘を持っていた人が4人いたが、4人とも太ももで傘を挟んでいた。こうすると両手が自由になり、本を読む(1人)、書類に目を通す(1人)、ケータイを操作する(2人)、という所作がしやすくなる。これらの所作は片手でもできないことはないが、両手を使った方が自由度が大きい(たとえば書類や本のページをめくる場合)。ただし太ももで傘を挟むことができるのは、傘があまり濡れていない場合に限られるだろう。びしょびしょの傘でそれをやったらズボンが濡れてしまう。傘が濡れている場合は、傘の柄の部分を両手ないし片手で握って、傘が身体に触れないように注意して(両足を広げてその間に、あるいは膝の前方に)傘を垂直に立てるであろう。それにしても、太ももで傘を挟んで座っている姿というのは、改めてながめていると、奇妙なものである。私はコテカ(ペニスケース)を連想してしまい、思わず吹き出しそうになるのをかろうじてこらえた。しかもその4人の乗客のうちの1人は女性なので、なにやら倒錯的な雰囲気さえ漂っている。・・・という話を3限の質的調査法特論で披露し(ただしコテカの話はしませんでした)、各自、どこか公共的な空間(車内、路上、公園、カフェ・レストラン、キャンパスなど)で非参与観察を行なってみて、来週の授業でその報告をするという宿題を出す。
  4限の卒論指導の後、生協戸山店で以下の本を購入し、教員ロビーで読む。教員ロビーには飲み物の自販機があり、ソファーがあり、ホテルのロビーのような趣があるのだ。

  橋川文三『昭和維新試論』(ちくま学芸文庫)
  『戦後占領期短編小説コレクション』2・4(藤原書店)

  夕方から、院生のAさんとTさんが研究室にやってきて、少しばかり話をしてから、食事に出る。最初、「秀永」をのぞいたのが、テーブル席が埋まっていたので、焼肉屋「ホドリ」に行く。ちょっと来ない間にメニューが多少変わったようである。お腹一杯食べてから、「カフェ・ゴトー」に場所を移し、おしゃべりを続けた。ひさしぶりで会うTさんからは興味深い話をたくさん聞いたが、ここでは書けないようなことばかりなのである。