午前中、テレビをつけたら、ちょうどNHK杯将棋トーナメント2回戦の1局、谷川浩司九段と橋本崇載七段戦をやっていた。興味深い対局だ。谷川九段は十七世名人の資格をもつ天才棋士だが、現在の棋界は羽生善治名人を中心とする後続の世代が支配しており、46歳の谷川は今年度のA級順位戦で2勝3敗と苦戦をしいられている。一方、橋本七段は順位戦はB級2組の所属だが、竜王戦では一組に所属する25歳の若手である。4年前にNHK杯将棋トーナメントに初登場したとき、金髪パンチパーマに紫色のシャツという盛り場のあんちゃんのような風体でマスコミの注目を浴びる。彼がそうした奇抜な行動に出たのには、地味というか、オタクっぽい棋士=将棋のイメージをなんとか変えたかったという理由があったらいしが、自己顕示は自己顕示でかまわない、もっともらいし理屈など言わない方がいいと私は思った。彼が将棋雑誌に書いている文章を読むと、そのエキセントリックな外見とは裏腹に、将棋に対して大変ひたむきな気持ちの持ち主であることがわかる。将棋だけ強い、ただの礼儀知らずの若造ではない。タイプとしては羽生世代で唯一のやんちゃ坊主、先崎学八段に似ていると思う。要するに、いろいろ言ったが、私は橋本七段には好感をもっている。だが、今日の対局は谷川九段に勝ってほしいと思った。やんちゃ坊主を「光速の寄せ」でスッパリと切り捨ててほしいと思った。昨日読んだジャック・ロンドンの短篇「一枚のステーキ」のように老いたボクサーが若いボクサーに負けるのは見たくなかった。谷川九段がそういう役回りを演じるのはまだ早い。そして、結果は、私の期待した通りになった。橋本七段の敗因は一直線の攻め合いに行ったことである。途中、一手だけ、自陣の歩の頭に飛車を打つ(飛車を守りに使う)手を指したが、谷川九段も相手の「と金」で取られてしまう場所にわざと桂馬を跳ねるという妙手でそれに応じ、これではっきりと谷川九段が良くなった。最後、橋本七段は一度だけ谷川九段の玉に王手をかけ、それを防がれると、自玉に王手がかかる前に投了した。一直線の攻め合いは谷川九段の強さを一番引き出す戦い方であり、橋本七段があえてそこに飛び込んだのは、天才谷川九段に対する畏敬の念が橋本七段の中にあったためだろうと思う。私はこの若者のことがまた少し好きになった。
今日、家にいるのは私と息子だけである。将棋の番組が終った頃、息子が二階の部屋から降りてきたので、朝食兼昼食を食べに二人で外へ出る。東急プラザの「とん清」で私は牡蠣フライ定食、息子はロースかつ定食。食べながら、財布は持ってきたのかと息子に尋ねると、息子は「えっ、割り勘なの?」とびっくりしたような顔で答えたので、そうではなくて、いつも財布にどれくらい入れているのかを聞いてみたかっただけである。私はその月の小遣いの全額をいつも財布に入れている。だから毎月15日が財布の中身は最大値を示し、以後、右肩下がりで推移する。だんだん淋しい気持ちになっていく。息子はいつも一定額しか財布には入れておかないそうだ。財布を落とすといけないからというのが理由らしい。「財布を落としたことがあるのか?」と聞いたら、「まだない」という。転ばぬ先の杖というわけか。堅実な人生だ。ちなみに私は一度だけ財布を落としたことある。旅行先でのことで、現金数万円と家族全員の特急指定席券と映画の前売券が数枚入っていた。大変な損害だった。しかし、その事件によって私の財布観(?)が変化することはなかった。息子は私とは違う人生を歩こうとしている。それはたぶんいいことだろう。
午後、NHKで全日本バドミントン選手権大会の女子ダブルス決勝の中継があった。これは例年のとことで、NHKはバドミントンに関しては女子優先である。試合が早めに終ると、すでに終っている男子シングルス決勝の模様を録画で見せてくれて、私にはこれが楽しみなのだが(男子の試合は迫力が全然違う)、今日は「オグシオVSスエマエ」という話題のカードだけに、女子ダブルス決勝も楽しみだった。その女子ダブルス決勝は一進一退の大接戦をオグシオ組が2-0で制して、大会5連覇を成し遂げ、有終の美を飾った。「一秒でも長くコートに立っていたい」と小椋選手は試合前に語っていたが、であれば、第2セットを逆転で取ったりせずに、第3セットまでいくべきだったのではないか。そうすればあと30分はコートに立っていられたはずである(笑)。表彰式のとき準優勝のスエマエ組の前田選手が遅刻したのはどうやらどこかで号泣していたからのようである。4人の中で一番若い前田選手だが、まだまだ強くなる選手だと思った。男子シングルス決勝は19歳の田児選手が同じNTT東日本の佐藤選手を2-0で破って、史上最年少チャンピオンになった。彼のジャンピング・スマッシュはたんに打点が高いだけでなく、手首の使い方が実に巧みで、打つ瞬間までコースがわからない。バドミントンをやったことのない人はわからないであろうが、あんなに速いシャトルを打ち返せるのは、打つ瞬間の相手の体勢からシャトルのコースをある程度予測できるからなのである。しかしこの試合では佐藤選手が一歩も動けないままスマッシュを見送る場面が何度かあった。これまで田児選手のような日本人選手を私は見たことがない。中国やインドネシアの一流選手とシングルで互角に渡り合える男子選手がついに現われたように思う。
今日、家にいるのは私と息子だけである。将棋の番組が終った頃、息子が二階の部屋から降りてきたので、朝食兼昼食を食べに二人で外へ出る。東急プラザの「とん清」で私は牡蠣フライ定食、息子はロースかつ定食。食べながら、財布は持ってきたのかと息子に尋ねると、息子は「えっ、割り勘なの?」とびっくりしたような顔で答えたので、そうではなくて、いつも財布にどれくらい入れているのかを聞いてみたかっただけである。私はその月の小遣いの全額をいつも財布に入れている。だから毎月15日が財布の中身は最大値を示し、以後、右肩下がりで推移する。だんだん淋しい気持ちになっていく。息子はいつも一定額しか財布には入れておかないそうだ。財布を落とすといけないからというのが理由らしい。「財布を落としたことがあるのか?」と聞いたら、「まだない」という。転ばぬ先の杖というわけか。堅実な人生だ。ちなみに私は一度だけ財布を落としたことある。旅行先でのことで、現金数万円と家族全員の特急指定席券と映画の前売券が数枚入っていた。大変な損害だった。しかし、その事件によって私の財布観(?)が変化することはなかった。息子は私とは違う人生を歩こうとしている。それはたぶんいいことだろう。
午後、NHKで全日本バドミントン選手権大会の女子ダブルス決勝の中継があった。これは例年のとことで、NHKはバドミントンに関しては女子優先である。試合が早めに終ると、すでに終っている男子シングルス決勝の模様を録画で見せてくれて、私にはこれが楽しみなのだが(男子の試合は迫力が全然違う)、今日は「オグシオVSスエマエ」という話題のカードだけに、女子ダブルス決勝も楽しみだった。その女子ダブルス決勝は一進一退の大接戦をオグシオ組が2-0で制して、大会5連覇を成し遂げ、有終の美を飾った。「一秒でも長くコートに立っていたい」と小椋選手は試合前に語っていたが、であれば、第2セットを逆転で取ったりせずに、第3セットまでいくべきだったのではないか。そうすればあと30分はコートに立っていられたはずである(笑)。表彰式のとき準優勝のスエマエ組の前田選手が遅刻したのはどうやらどこかで号泣していたからのようである。4人の中で一番若い前田選手だが、まだまだ強くなる選手だと思った。男子シングルス決勝は19歳の田児選手が同じNTT東日本の佐藤選手を2-0で破って、史上最年少チャンピオンになった。彼のジャンピング・スマッシュはたんに打点が高いだけでなく、手首の使い方が実に巧みで、打つ瞬間までコースがわからない。バドミントンをやったことのない人はわからないであろうが、あんなに速いシャトルを打ち返せるのは、打つ瞬間の相手の体勢からシャトルのコースをある程度予測できるからなのである。しかしこの試合では佐藤選手が一歩も動けないままスマッシュを見送る場面が何度かあった。これまで田児選手のような日本人選手を私は見たことがない。中国やインドネシアの一流選手とシングルで互角に渡り合える男子選手がついに現われたように思う。