10時、起床。一度、明け方に目覚めたが、そのまま目を閉じてじっとしていたら、次は10時だった。久しぶりによく寝た気がする。
玉子かけご飯と味噌汁と冷麦茶の朝食。
午後、ブログの更新をすませてから、散歩に出る。だんだん天気がよくなってきた。
昼食は「テラス・ドルチェ」で生姜焼きセットとコーヒー。
持参した「薫君シリーズ」4部作(新潮文庫版)の4篇の「解説」を読む。筆者は男性が3人(苅部直、御厨貴、坪内祐三)と女性が1人(紫門ふみ)。男性たちが、「これは戦いの小説である。あえてもっと言えば、知性のための戦いの」(苅部)、「『黒』を決定づけているのは、薫君の兄貴とその世代、青春と決別を迫られている世代の「さよなら」を、この本が次第次第に明確にしていくこと」(御厨)、「一九六九年七月の新宿の熱い一日を描いた作品」(坪内)というふうに、生真面目な読み方(それが間違っているとは言わない)をしているのに対して、紫門ふみは「今回漫画家として読み返してみて、当時の日本の若者が熱狂して受け入れた大きな要因は、「薫君」というキャラクターの秀逸さにあったのではないかと、私は気づいた」と述べる。
「東京の裕福なお坊ちゃんのくせに、嫌味がない(金持ちの家の息子であることを自慢も屈折ももたず素直に受け入れているのだ)。
日比谷高校出身の超秀才であるにかかわらず、ちっとも天狗にならず、ちょっとドジで(気の強い幼馴染に振り回されっぱなし)、PTAのおばさんにも愛想のいい好青年である)。
金持ちの坊ちゃんイコール馬鹿か、もしくは鼻もちならないエリートであるに違いないと思い込んでいた当時の庶民にとって、薫君は画期的なキャラクターだったのだ。
金持ちで秀才なのに、〈感じがいい〉男の子なんて、それまでの日本にいなかったと言ってもいい(加山雄三の若大将も、感じのいい金持ちの大学生であったが、若大将は遊んでばかりで知性があまり感じられなかったので、私たち世代のウケは今ひとつだった)。当時、私の周辺にいた女の子は、みんな「薫君」に好感を抱いていた。
しかも、薫君は〈男〉を振りかざすのではなく、女の子を守るために頑張っちゃう〈男の子〉なのだ。そうそう、私たちが求めていたのはこういう男の子なのよと、昭和四十年代の女の子は声を上げたのだった。」
「薫君が、散歩の途中、由美の家の前で彼女の部屋を見上げるシーンがある。
由美が苦手な算数の宿題と格闘したり、すごいかっこうで足の爪を切っていたり、薫君との喧嘩について皮肉な日記を書いているところを思い浮かべ、
そして白状すると、そうやって遠くから窓なんかを眺めた時には何故かとてもやさしい気持ちになって、今度会った時にはなにか頭にきてもやさしく我慢してやろう、といったことを考えたりすることもあるほどなのだ。(78頁より引用)
こんな風に女の子のことを考えてくれる男って、じつはそんなに多くない。というか、ほとんどいない。一九七〇年代も、そして二〇一二年現在でも。
特に現代においては、多くの若い男の子が仮想の女性に逃げ、生身の女と向かい合おうとすらしない。喧嘩しても逃げ出さずに、もっと大きな男になって、彼女に優しくしてあげようなんて、今や絶滅危惧種かもしれない。」
「由美のためにハナモクレンの枝を折って、彼女の家の門に置くシーン。
「あたしのことどれだけ好き?」
と由美に聞かれて、
「このくらい」
と両手を広げるシーン。
これらの情景が私は大好きで、漫画家になった後に、似たようなシーンを描いている。そのままそっくり描いているわけではないので、大目に見てください。じつは、五十過ぎた今でも、時折ふと、
「舌かんで死んじゃいたい」(←由美の口癖:大久保が注釈)とつぶやいてしまうぐらい、庄司薫信者の私なのであります。
あまりにもファン過ぎて、解説としては不備な点、お許しください。」
かなりミーハー的な解説だが、当時の女性ファンの心理を的確に伝えている。男性読者にとっての薫君と女性読者にとっての薫君の魅力が違うのは当然といえば当然だ。でも、薫君のそういうところが女性には魅力的らしいということは男性読者も知っていたはずである。少なくとも高校生の私はそうだった。なぜかというと、文芸部の部長をしていた同級生の女の子が「薫君シリーズ」の大ファンで、私にこの小説の魅力を飽きることなく語ってくれたからだ。彼女もよく「舌かんで死んじゃいたい」と言っていたっけ。なので、高校生の私にとって、「薫君シリーズ」は、「馬鹿馬鹿しさのまっただ中で犬死しないための方法」について考えるための指南書であると同時に、女の子にもてる男になるための指南書でもあったのである。男性3人の「解説」はそちらの方にはまったく触れていない。その点が私には物足らないのである。
くまざわ書店で以下の本を購入。
竹内洋『メディアと知識人 清水幾太郎の覇権と忘却』(中央公論新社)
大井浩一『六〇年安保 メディアにあらわれたイメージ闘争』(勁草書房)
山田昌弘・塚崎公義『家族の衰退が招く未来』(東洋経済新報社)
アンソニー・グランド、アリソン・リー『8週間で幸福になる8つのステップ』(ディスカバリー)
小雪『生きていく力』(小学館)
竹内さんの本については語ると長くなるので、ここでは、小雪さんの本について一言だけ語ろう。表紙を見て、買うことを即決した。
夕暮れの空がきれいだった。梅雨の晴れ間のよい一日だった。