9時半、起床。
トースト、サラダ、牛乳、紅茶の朝食。
10時半に家を出る。工学院通りで学生たちがダンスの練習をしている。
久しぶりの神保町。(『孤独のグルメ』のオープニングみたいじゃないか)
A7出口を出てすぐにところにある喫茶店「さぼうる」。神保町を代表する老舗のカフェである。手前に「さぼうる2」があり、どちらに入ろうか一瞬迷ったが、 カフェご飯にするなら「さぼうる2」だが、待ち合わせだけのつもりなので、本家の「さぼうる」の方に入る。
「お一人ですか?」と聞かれ、「待ち合わせで、あとからもう一人来ます」と 告げると、2階(山小屋のロフト的な空間)の席に案内される。まだ午前中だが店内はすでに混んでいる。
ブレンドコーヒーを注文。待ち合わせ相手の卒業生のサワチさん(論系ゼミ7期生)に「さぼうる」で待っていることを連絡する。いつもであれば駅の改札で待ち合わせるところだが、今日は「カフェ巡り」がテーマなので、カフェで待ち合わせることにしたのである。ただし、有名店の多いこの神保町界隈、必ずしも事前に約束したカフェに入れるかどうかはわからないので、私が先に現地入りして、入れた店を彼女に知らせることにしたのである。
ほどなくして彼女がやってくる。ちょうど広いテーブルが空いたのでそちらに移動し、彼女はクリームソーダを注文した。いきなりクリームソーダとは、やりますね(笑)。「さぼうる」のクリームソーダは6色あるそうだが、彼女はオーソドックスなメロンソーダをチョイス(照明の関係で写真ではブルーハワイに見えますが)。
今日のカフェ巡りは私の馴染みにカフェを巡るいつものパターンではなく、「神保町」というカフェのメッカを巡るもの。神保町は日本一の古本屋街があることで知られるが、古本とカフェの相性はきわめてよい。古本屋を梯子してはカフェで一服し、購入したばかりの古本をそこで読むというのは学生時代の私にとっての至福の時間だった。一方、サワチさんは学生時代からカフェ巡りが趣味で、休日に一人で、あるいは友人と、あちこちのカフェを探訪してきた。今回、彼女から神保町か日暮里でカフェ巡りをしたいと提案があり、下町情緒あふれる日暮里にも惹かれたけれど、学生時代からの懐かしい街、神保町でということになったのである。
「さぼうる」には1時間ほど滞在した。これが「さぼうる」の外観である。トーテムポールと赤電話(現役なのかしら?)が目を引く。1955年の創業で(私の方が1つ年上だ)、店名はスペイン語の「味」(味わい)から。看板に「味の珈琲屋 さぼうる」とある。
2軒目のカフェで昼食をとりましょう。どこにしようかな、と路地を歩いていると、「ラドリオ」という年季の入ったカフェと遭遇する。斜め向かいの「ミロンガ」という同じくらい年季の入ったカフェにも心惹かれたが、表の黒板に書かれた「チキンカレー」の文字を見て「ラドリオ」に決めた。
神保町にはカレー店が多く、カフェにもカレーを出すところが多い。そして「カレーはやっぱりチキンカレー」なのだ(草彅剛主演のテレビドラマ『僕の歩く道』の主人公がよく言っていた台詞)。
「らぼうる」に負けず劣らず老舗のカフェである。 店内にはエディット・ピアフの歌う『パダン・パダン』が流れていた。
店のカウンター周辺を描いたレリーフから「1949」年の創業とわかる。私より5つ年上、今年は創業70周年だ。
チキンカレーセット。サラダとスープ、そしてドリンクが付く。
ドリンクはこの店の名物(サワチさんがネットで手早く調べた)であるウィンナーコーヒーをチョイス 。ウィンナーコーヒーをメニューに入れたのは日本ではこの店が初めてだそうである。
カップに比してクリームの量が多い。普通に飲もうとすると鼻の頭にクリームが付く(実証済)。かといってクリームをコーヒーに溶かそうとするとコーヒーがカップから溢れる(これも実証済)。それで最初にクリームを少し食べて、鼻がぶつからないようにしてから、コーヒーをすすり、コーヒーの量が減ってから、クリームをコーヒーに溶かして飲んだ。おそらくこれが正しい飲み方ではなかろうか。
「ラドリオ」には1時間ほど滞在した。店名はスペイン語で「レンガ」の意味。
斜め向かいの「ミロンガ・ヌオーバ」もスペイン語由来の店名で「 新しいダンスパーティー会場」の意味。創業は1953年で、私より1つ年上だ。「さぼうる」「ラドリオ」「ミロンガ・ヌオーバ」、同じような時期に開店した3つのカフェがスペイン語由来の店名なのはどういう理由によるものだろう。
ランチの後は腹ごなしに古本屋街を散歩。サワチさんは古本屋巡りの経験はないらしい。せっかく4年間、神保町に次ぐ日本第二の古本屋街・早稲田で過ごしたというのにもったいない話である。いま、このブログを読んでいる早稲田大学の現役学生の諸君、古本屋巡りをしてみようね。
「田村書店」。私の中では神保町で一番古本屋らしい古本屋である。
見よ、この黄色い札の群れを! あたかもナイアガラ瀑布のようではないか。
全集もののタイトルと巻数と値段が書かれている。サワチさんが値札を見て、「けっこう高いですね」と言った。いやいや、一冊あたりに換算すれば安いものですよ。
「ここは私の親戚がやっている古本屋です」
「ほんとですか!」
「ウソです」
「・・・・」
「名前を言ったら割り引いてくれないかな」
「大久保割ですね!」
「一誠堂書店」。その風格において神保町で最高位に君臨する古本屋である。この店に入る時は、たとえば銀座の紳士服の老舗『英國屋』に入る時のような緊張感がある。うっかり安物のジャケットを着て入ろうものなら、「失礼ですが、当店はお客様には不釣り合いな店かと存じます」と店員に丁重に門前払いをくいそうな雰囲気がある。
高橋康男『風雅のひとびと~明治・大正文人俳句列伝』(朝日新聞社、1999年)を購入。20年前に定価2600円のものがわずか300円で手に入る。ありがたき古本の世界である。ちなみにAmazonの中古品では「1円」(最安値)で出ているが、送料「350円」である。
「矢口書店」。ここの店外の棚も神保町らしい情景である。
店外だからといって万引きされても痛くも痒くもない安価な文庫本が並んでいるわけではない。「あっ、このシリーズ、家にけっこうあります」と彼女が言った。見ると、岩波の「日本思想体系」(全67巻)である。 お父様は法学部のご出身だそうだが、丸山真男のような思想史研究の分野に関心がおあり(だった)のだろうか。
「矢口書店」はサワチさんが関心があるであろう演劇分野を専門とする古本屋です。ちょっと中に入ってみましょう。
彼女は5月と7月に芝居に出るそうである。特定の劇団に所属しているわけでなく、芝居がしたくなると、オーディションを受けるのである。
さて、古本屋巡りはこの辺にして、カフェ巡りを再開しましょうか。
すずらん通りを歩く。
早稲田にも店がある「キッチン南海」。行列が出来る人気店である。
中国書籍の専門店〔内山書店」。学生時代は第二外国語が中国語だったので、よくテキストなどを買いに来た。当時は日中学院が同じビルに入っていて(現在は文京区後楽にある)、短期間だが通った経験がある。
天ぷらの老舗「はちまき」。1931年(昭和6年)創業で、数々の文豪に愛されてきた店である。
サワチさんが薬局の店先に置かれたサトちゃんに飛びついた。佐藤製薬のキャラクターだが、いまでも人気があるらしい。
「文房堂」のビル。
画材や文房具、雑貨の店だが、3階がカフェになっている。心惹かれるものがあるが、次回にしよう。
3軒目に入ってのは、サワチさん推奨の「古瀬戸珈琲店」。 駿河台の坂下、ビルの2階にあるカフェである。
コーヒーカップが壁面の棚にずらりと並んでいる。
この店の看板商品である(サワチさんリサーチ)シュークリームとブレンドコーヒーを注文。お皿には動物のフィギアが付いてきた。と思ったら、フィギアは置かれているのでななく、皿の一部なのであった。「これは市販のお皿ですか?」とお店の人に尋ねたら、「特注品です」とのこと。
シュークリームはもちろんそのままかぶりついてもいいのだろうが、それをしようとしたら粉がズボンに落ちたので、フタの部分を外し、スプーンでクリームを救ってそこに塗って食べ、台の部分はそのまま手にもってオープンサンドウィッチ風にして食べた。これが果たして正しい食べ方であったかどうかについては、ウィンナーコーヒーのときほどの自信はない。
私の皿は猫。 ちょっと卑屈なポーズである。
彼女の皿はリス。こちらはかわいい。
カウンターに座ると目の前の棚から自分の好みのカップを指定できるそうだが、われわれは大きなテーブルだったので、残念ながらそれはできなかった。動物のフィギア付の皿とのバランスなのか、ファンタジックな柄のカップだった。
「古瀬戸珈琲店」には1時間ほど滞在した。「古瀬戸珈琲店」の創業は1980年。あの可愛らしいお皿とカップからはもっと最近出来たカフェかと思ったが、そうか、創業40年なのか。ちょっと意外。もっとも創業当時からあのお皿が使われていたわけではあるまい。時代の流れの中で「かわいい」ものが登場してきたのだろう。
駿河台界隈を散歩。
甲賀坂で急に彼女の眼光が鋭くなったのは、女忍者のDNAのせいだろう(笑)。
早咲きの桜の木の下で。
穏やかな表情に戻った。
紅梅坂。ここには有名な建物がある。
ニコライ堂である。
入ってみましょう。
正式な名称は「東京復活大聖堂」。日本正教会の教会である。ニコライは日本に正教会の教えをもたらしたロシア人修道士祭の名前。
ドーム屋根が特徴のビザンチン様式の教会である。
聖堂拝観(見学)の時間は午後1時から3時半まで(4月~9月までは4時まで)で、ちょうどドアに鍵がかけられたところだったが、敷地内の見学は5時まで大丈夫のようである。
彼女はこの石のベンチが気に入ったようである。
細部に意匠が施されている。
天使のような女の子が歩いている。
もうあの頃には戻れない・・・。
女優スイッチ入ってます(笑)。
ここの十字架はいわゆるロシアンクロス、8箇所の先端部分があることから八端十字(はったんじゅうじ)と呼ばれる。キリストが処刑されるとき、ゴルゴダの丘に背負って行った十字架がこの八端十字であった。
少し雨がぱらついて来たが、もう一軒行きましょう。
カフェ巡りの最後は「眞踏(まふみ)珈琲店」。2016年9月に開業した若いカフェだ。
一階はカウンター席、二階はテーブル席。二階に上がる。
本棚に囲まれた落ち着いた空間である。1つの本棚のちょっと手前に出ている本を引っ張ると、そこがトイレのドアになっている。まるで忍者屋敷のような仕掛けである。「トイレはどこですか?」と店員さんに聞くと教えてくれる仕掛けになっている。
私はロイヤルミクルティー。「珈琲店」で紅茶を注文するのはどうかと思ったが、メニューに載っているわけだし、ここまでコーヒーを飲み続けてきたので、最後は紅茶で締めたかった。
彼女はメニューにある「ブラン・エ・ノワール」というのが気になるようである。「何でしょうか?」と聞かれたので、「何だかわからないけれど、『白と黒』とあるわけだから、コーヒーの上にコンデンスミルクの層があるんじゃなかしら」と答えた(ベトナムコーヒーみたいに)。運ばれてきたのはまさにイメージ通りのものだったが、飲んでみると、「飲むコーヒーゼリーみたい」(サワチさん談)なものだった。
「眞踏珈琲店」には1時間ほど滞在した。われわれの体内時計は1カフェ=1時間というリズムを刻んでいた。
時計は5時を回っていた。雨上がりのすずらん通りを神保町の駅へ向かう。
今日はカフェ巡りにお付き合いいただいて、ありがとう。今度のお芝居もまた観に行きますね。私は三田線、彼女は半蔵門線に乗ってそれぞれの家路に着いた。
6時、帰宅。
夕食はラムチョップ、めかぶ、玉子と野菜のスープ、ご飯。
付け合せはキャベツとエリンギとスナップエンドウのソテー。
3時、就寝。