句会が始まった。いつもの「カフェゴト―」での句会では事前に投句が行われ(紀本さん宛てにメールで送る)、当日は全作品が無記名でコピーされた紙が配られ、ただちに選句が始まるのであるが、今回は吟行ということで、各自が句を作るところから始まる。紀本さんから短冊が3枚ずつ配られ、それに句を書くのである。
句作をしている間に、注文したお菓子と飲み物が運ばれてきた。
生菓子を注文した人が多かった。私は「織部餅」と名付けられた生菓子。
紀本さんは「林檎形」。
明子さんは「小倉野」。
渺さんは「亥の子餅」。
月白さんは「紅葉重ね」。
花さんはクリームあんみつ(白玉)。
ビジュアル的には紀本さんの「林檎形」が一番だろう。でも、みんな違う生菓子を注文したのは、「みんなでシェアして食べましょう」という暗黙の(?)合意が形成されていたからである。
ケーキ入刀ならぬ林檎形入刀。
弾力があって、「グニュッ」という感じで入って行く。
他の方からいただいたそれぞれの生菓子。完全形のときの面影はまるでない(笑)。 でもいろいろ味わえて満足。
句を書いた短冊を紀本さんに渡し、紀本さんがそれを一枚の紙に清書していく。
全員の作品を清書した紙を明子さんが最寄りのコンビニに行って人数分コピーしてきてくださった。
原則一人三句だが、花さんは一句、明子さんは二句だったので、全部で15句。
私の句は3番、5番、9番である。それぞれ昨日今日の京都散歩の途中で原案が出来、それを推敲して完成させたものである。全15句中、この「虎屋」の生菓子を詠みこんだ作品が5句ある(2番、4番、7番、8番、13番)。これは本当の即興だ。
これから選句、選評となるからまだ1時間近くは滞在するだろう。追加注文をしないといけない気分になり、磯辺巻きと安倍川餅を注文した。
選句は一人三句(天=5点、地=3点、人=1点)。
私は次の三句を選んだ。
天 重苦しとらや本店栗ようかん
地 冬はじめ斜め後ろの席で待つ
人 撮り鉄の佇む駅に柿一本
各自が順に自分の選んだ作品を発表して行く。それを紙にメモしていく。
集計結果が出たところで、(作者はまだ明らかにされていない)選評を述べ、それが終わったところで初めて作者が明らかにされる。
13点 落葉に耳傾ける鬼瓦 月白
今回の特選句は月白さんの作品。紀本さんと花さんが「天」、明子さんが「地」を付けた。京都御所で詠んだものだろう。「傾ける」という動詞は終止形と連体形が同じである。それを利用して二重の意味を作品に与える手法は俳句ではよく使われる。すなわち、「傾ける」を終止形ととれば、作者が鬼瓦を眺めながら(視覚)、落葉のかそけき音を聴いている(聴覚)ことになる。また、「傾ける」を連体形ととれば、落葉のかそけき音を聴いているのは鬼(瓦)であることになる(擬人化)。どちらと確定する必要はない。その重層構造を楽しめばよい。
9点 冬はじめ斜め後ろの席で待つ 明子
紀本さん、渺さん、私がそろって「地」を付けた作品。場所は教室であろう。冬の淡い光が窓から差し込んでいる。作者は誰かを待っている。その人が座るであろう席の斜め後ろの席で。静けさの中に奥ゆかしさと不気味さが感じられる作品である。たぶん明子さんの句であろうと思った。そういえば明子さんはクラーク記念館の教室での「授業」のとき月白さんの斜め後ろに座っていましたね(笑)。
6点 赤黄色(あかきいろ)落葉拾いて京の旅 たかじ
私の句。月白さんから「天」、花さんから「人」をいただいた。昨日、鴨川の畔を歩いている時に原案はできた。昨日のブログを書いたのは句会の後だが、そこでは推敲して「あかきいろ落葉拾いて京の旅」とした。振り仮名を外すと「赤黄色落葉拾いて京の旅」となり、頭から漢字が6文字続いてお経(南無阿弥陀仏)みたいな感じがしたからである。「あかきいろ」としても色はイメージできるし、そして何より軽さが出ると思う。
6点 重苦しとらや本店栗ようかん 紀本
私が「天」、月白さんが「人」を付けた。この「重苦し」がみんなが句を作っているときのものであることは吟行の参加者にしかわからない。しかし、そうした事情を知らない人がこの句を読んでも、それなりに面白みを感じることができる普遍性を持った作品である。たとえば別れ話をしている男女、反対に、初めてのデートで会話がうまくできない男女、とか。「とらや本店」という重厚感が「重苦し」に拍車をかけている。私はそこを評価して「虎屋」での作品の中から唯一この句を選んだ。
5点 まだまだと寒さ自慢の京都人 たかじ
私の句。これも昨日のブログに書いた(もちろん句会の後だから参加者は知らない)。明子さんから「天」をいただいた。明子さんが東京(東工大)から京都(同志社女子大)に移られて今年で三度目の京都の冬を迎える。どうぞ温かく、暖かくして、お過ごし下さい。
亥子餅にらめっこして無言 紀本
渺さんが「天」を付けた。玄の子餅を注文したのは渺さんだった。他の人が句作をしながら生菓子を食べているときに、渺さん一人、玄の子餅に手を付けず、三句作り終えてからようやく食べた。そのストイックな姿を詠んだものである。ある意味、自画自賛的選句といえるかもしれない(笑)。
3点 人混みを避けて露地(ろおじ)の初紅葉 月白
花さんが「地」を付けた。「露地」は普通は「ろじ」であろうが、「ろおじ」は京ことば。それによって五七五の調子を整えた。神戸在住の月白さんにとって紅葉シーズンの京都の人出は恐ろしく感じられる。君子危うきに近寄らず。美人もまたしかりである。
3点 風止みて重力も消え落葉舞う 渺
月白さんが「地」を付けた。「重力」といった理数系の言葉を句に入れるのは旭川の蚕豆さんの得意とするところで、句会でもそれを真似する人がときどきいる。今日のメンバーからして、この句は蚕豆さんの盟友である渺さんの作品に違いないと私は読んだが、はたしてそのとおりであった。月白さんにそれがわからないはずはないと思うので、インサイダー疑惑浮上である(笑)。
2点 霜月やふきよせふみしめ京の旅 花
紀本さんと明子さんが「人」を付けた。「ふきよせ」とはさまざな種類の落葉が風に一つ所に吹き寄せられている様子から料理や煎餅の詰め合わせを指すときなどに使うが、ここでは原義そのものである。私の「あかきいろ落葉拾いて京の旅」と構図は似ているが、落葉を拾う男のやさしさと落葉を踏みつける女の残酷さが、実に対照的である(笑)。
1点 皿の上クリスマスが行列に 明子
渺さんが「人」を付けた。先ほどのさなざまな生菓子が並んだ様を詠んだものだろう。推敲不足の感は否めないが、食レポで彦麻呂がいいそうなセリフである。「お皿の上がクリスマスの行列や~」(笑)。
1点 撮り鉄の佇む駅に柿一本 月白
私が「人」を付けた。吟行とは別にあらかじめ作り込んできた作品だろう。作者にどこの駅かと尋ねたら、映画『砂の器』で有名になったJR西日本の木次線の「亀嵩」(かめだけ)駅だそうである。
「虎屋」を出たのは4時。地下鉄に乗って、ホテルに荷物を預けてある私は今出川で降り、京都駅に向かう面々とはここで別れた。次回の句会(通常)は1月19日(日)午後1時から「カフェゴト―」で。兼題は「数字を入れること」。
ホテルで荷物を受け取って、四条大橋を渡る。新幹線の時刻まで1時間半ほどあるので、夕食を食べていこうと。
橋の上は人でいっぱいだ。
「松葉」本店は四条大橋の袂、「南座」の隣にある。
三階席に案内される。時刻はまだ5時。空いていて、見晴しもいい。
鴨南蛮丼を注文(汁代わりにかけ蕎麦が付いて来た)。
「松葉」本店でしか食べられないメニューである。親子丼の鴨版というところ。この時期の鴨肉は脂がのってきて美味しいのだ。玉子はトロトロで汁もたっぷり。ご飯が進む。
あっと言う間に夕暮れだ(四条大橋を眺める)。
「松葉」を出て、四条大橋を渡る。 三日月が浮かんでいる。
京都駅発6時8分ののぞみ248に乗車。
危うく一つ前ののぞみに乗りそうになった(せっかく指定席をとっているのに)。
蒲田には8時半頃着いた。
帰宅すると、いただきものの美味しいケーキがあった。
明子さん、世話役ごくろうさまでした。みなさん、またお会いしましょう。
句会のグループラインを見ていたら、次の地方句会は旭川でやろうという声が上がっていた。マジか(笑)。
1時半、就寝。