文化逍遥。

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わたしのレコード棚―ブルース20、Gus Cannon,

2011年06月25日 | わたしのレコード棚
 ガス・キャノン(Gus Cannon)は、1883年ミシッシッピ州レッド・バンクス近郊の生まれなので、録音を残した第一世代と言ってもいいだろう。両親はシェアー・クロッパー(小作人)だったという。メンフィスで亡くなったのは1979年で、96歳だった。激動の時代を、ほぼ1世紀生き抜いた希有なミュージシャンと言える。その生涯が象徴するかのように、キャノンの音楽は多様性としたたかさをもっていたように思われる。

 さて、ガス・キャノンは、1927年にシカゴに行きパラマウントにヴォーカルとバンジョーで6曲、最初の録音をしている。その内5曲にはブラインド・ブレイクがセカンドギターを付けている。その時にはバンジョー・ジョーという名前を使ったらしい。その後は、メンフィスで自らのグループ、キャノンズ・ジャグ・ストンパーズを結成し1930年頃まで初期の録音を残している。恐慌後はプランテーションに戻り、仕事の合間に街角で演奏して小銭を稼いでいたらしいが1953年以降再び録音の機会に恵まれ、記録映画にも出演した。
キャノンズ・ジャグ・ストンパーズの主な構成メンバーは以下のとうり。
ガス・キャノン(Gus Cannon)ヴォーカル、ギター、バンジョー、ジャグなど。
アッシュレイ・トンプソン(Ashley Thompson生没年未詳)ヴォーカル、ギターなど。
ホーサ・ウッズ(Hosea Woods生没年未詳)ヴォーカル、バンジョーなど。
ノアー・ルイス(Noah Lewis,1895~1961)ハーモニカ、ヴォーカル。


 YAZOOの2枚組LP1082/1083。ジャグ・ストンパースとしての1927~'30年までの全録音35曲が聞ける。特にノアー・ルイスのハ―モニカは、後のハ―ピストのように複雑なテクニックは無いが、素朴な響きがすばらしい。わたしの特別に好きなハ-ピストの一人。後にルーフ・トップ・シンガースがカヴァーしてヒットした、1930年の[Walk Right In]を収録。




 Collector's IssueのLP5523。上がジャケットの表で、下が裏面。録音時80歳とは思えない声の張りと、正確で味わい深いバンジョーのピッキングで、わたしの愛聴盤の一枚。内容は、1963年にメンフィスのソウルレーベル「スタックスstax」に残した再発見後の録音で、旧友ウィル・シェイドがジャグを、ミルトン・ロビー(Milton Robie)という人がウォシュ・ボードを担当している。ギターも入っているが、誰かは不明。フラットピックを使っているように聞こえるので、あるいはフォーク系の人が弾いているのかもしれない。このLPにはバンジョーを使ってのスライド奏法は聞けないが、ジャケットの写真はバンジョーを膝の上にねかせてナイフスライドをかまえている。このジャケットの写真は興味深い。ガス・キャノンは5弦バンジョーを弾く人なので、写真のような弾き方をすると5弦の糸巻きがジャマになると思うのだが、どんなもんだろう。あるいは、スライド奏法の時だけは4弦バンジョーを使っていたのだろうか。下のP-vineのCDも同じ内容の物。歌詞カードが欲しくてつい買ってしまう。



 ガス・キャノンは1953年頃に再発見された時、庭師のような仕事をしていて、「昔レコードを吹き込んだことがある」と言っても誰も信じてくれないような状態だったという。また、[Walk Right In]がルーフ・トップ・シンガースのカヴァーでUSAチャート1位になっても印税を貰えなかったらしい。これも、アメリカなんだな、と思う。


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