上の写真は、下に紹介したRSTレーベルのCDジャケット写真の一部を切り取ったもの。手前の人が演奏しているのがジャグで、大きめのビン等を口から少し離してかまえ、ラッパを吹くときのようにブッブッブと音を出し、ブラスバンドのチューバのような感じで演奏する。うまい人が演奏すると音階が出せる。わたしも以前ウィスキーの特大ビンを使って挑戦したことがあるが、トニックノートに近付けてリズムを維持するのが精一杯だった。なお、写真がメンフィスジャグバンドだとすると、このジャグ奏者はジャブ・ジョーンズの可能性が高い。後方の人は、カズーを演奏しているようにも見えるが、定かではない。
本来ジャグは、楽器を買えない音楽家たちが苦肉の策で空き瓶や空き缶などを楽器として利用したのが始まりだろう。その点では、桶に棒を立てて紐を弦にして作ったイミテーション・ベースと同じで、必要は発明の母というわけだ。素朴な響きのするジャグやカズー、イミテーション・ベース、バンジョー、ギターなどを集めて色々な音楽の要素をごちゃ混ぜにして酒場や街角で演奏したのがジャグ・バンドで、今でいうコミック・バンドの要素を多分に持っていたと思われる。1930年頃のメンフィスでは大いに受けたという。その中心的存在がメンフィス・ジャグ・バンドというわけだ。
メンバーは入れ替わりが激しかったようで、フランク・ストークス、ダン・セイン、ウィル・バッツ、メンフィス・ミニー、ファリー・ルイス、ウィル・ウェルダン、といった人達も時に参加していたようだ。中心的メンバーは以下の3人になる。
ウィル・シェイド(Will Shade,1898Memphis~1966Memphis)ヴォーカル、ギター、ハーモニカなど。
チャーリー・バース(Charlie Burse,1901Ala~1965Memphis)ヴォーカル、ギター、マンドリンなど。
ジャブ・ジョーンズ(Jab Jones,生没年未詳)ジャグなど。
ROOTSのLPでRL-337。1927~'34年の16曲を収録。憂歌団も取り上げた[Stealin' ,Stealin']が聞ける。写真に写っている人物は、LPのジャケットにクレジットされていないので確かなことは言えないが、おそらく、左からチャーリー・バース、ウィル・シェイド、その右後方の人は不詳、右端はケーシー・ウィル・ウェルダンと思われる。
オーストリアのレーベルRSTのBDCD6002。1932~'34の21曲を収録。
御多分にもれず、大恐慌後の1930年代前半にはメンフィス・ジャグ・バンドの面々もミュージックシーンから消えてしまうが、1956年にサム・チャータースにメンフィスで見つけられて再び録音をするようになった。このドキュメントのLP561は、再発見後の1961年にウィル・シェイドとガス・キャノンが中心となって演奏したメンフィスでのハウス・パ-ティーを収録したもの。さすがに、衰えは隠せないが、ベテランの味は出ている。ジャケットの写真中央でジャグを首からぶら下げてバンジョーをかまえているのがガス・キャノン。ルーフ・トップ・シンガースのカバーでヒットした[Walk Right In]が聞ける。
聴き慣れない人がジャグ・バンドを聴くと、音がバラバラでまとまりのない音楽に聞こえるかもしれない。が、音やリズムの微妙なズレは計算されたもので、それによって表現しようとしたものがあることを聴き取りたいものである。それは、聴いた後に余韻として残るもの、とも言える。