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わたしのレコード棚―ブルース43、Blind Willie McTell

2018年01月06日 | わたしのレコード棚
 合衆国東部、特にジョージア州のブルースマンは12弦ギターを弾く人が多い。その中でも代表的と言えるのが、今回のブラインド・ウィリー・マクテル(Blind Willie McTell)だ。この人は、盲目でありながら街の案内をしたという伝説の持ち主で、実際に特殊な能力を持っていたらしい。これは、現在ではエコー・ロケーションと呼ばれるもので、2011年12月にNHKテレビで特集され、翌25日付のこのブログでも取り上げておいたので、興味のある人はこちらを参照して欲しい。また、その特殊能力についてジャス・オブレヒト著『9人のギタリスト』p139に最初の妻ケイトの話が載っており、とても興味深いので、少し長いが引用しておく。
『彼は自分の世界では目が見えると感じていました。わたしたちが自分の世界で見えると感じるように。髪がどのくらい長いか、わたしの肌が何色か、言うこともできました。そして、彼に近づき、話しかければ、それが黒人なのか、白人なのか、言い当てられました。しかも、背がどのくらい高いか、背が低いかどうかも――ただ声を聞くだけでわかったのです。また、太った人間か、やせた人間かどうかも。驚くべき人です。行きたいところは、どこでも行けました。杖を持っていて、その音に合わせて「チ、チ、チ、チ」と言うのです。それで、何かにぶつかることもありませんでした。彼が言うには。近づいた物に音がぶつかり、それをどう避けたらいいのかわかったのだそうです。』

 生まれは資料によって異なるが、1901年ジョージア州トムスン(Thompson)というのが今では有力になっている。亡くなったのは、1959年8月19日で、同州のミレッジヴィル州立病院で脳出血のためという。

 わたしも12弦ギターを所有しているが、なかなか思いどおりに弾きこなせない。特に3~6コースは、オクターブでチューニングするのだが、ダウンで弾いた時とアップで弾いた時とではトーン(音色)が変わってしまう。その点、ウィリー・マクテルの音のコントロールは抜群で、この人の演奏を聴くと「この人を超える12弦ギタリストはもう出ないだろう」というのが実感だ。


ソニーレコードの2枚組CD。初期の1929~'33にコロンビアなどに残した41曲を収録。何曲かで、やはりジョージアのギターの名手カーリー・ウィーバーがバッキングを務めていて、それも聞きごたえがある。1930年4月17日、アトランタでの録音の3日後、コロンビアはブラインド・ウィリー・ジョンソンをアトランタの同じ場所で録音している。この時、マクテルがウィリー・ジョンソンのセッションにも参加したという資料もあるようだが、実際にはそれは残っていないようだ。もし、その録音があれば、ジャンルを超えた音楽史上の遺産であることは疑いない。ただ、この後二人のウィリーは知り合いになり、共にツアーに出たのは間違いないらしい。実際、スライドを使ったゴスペル曲ではウィリー・ジョンソンのつよい影響が感じられる。


MCAのLP1368。1935年4月のセッションで、当時の奥さんケイトがセカンドヴォーカルを5曲でつけている。


ブルースヴィルのLP1040.1956年9月、アトランタでの録音。これが最後の録音らしい。

 ウィリー・マクテルの親戚筋にはミュージシャンが多く、ジョージア・トム・ドーシー、バディ・モス、バーベキュー・ボブとその兄弟のチャーリー・リンカーンなどがいる。次回以降、これらのプレーヤー達も取り上げていきたい。
 

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