永井紗耶子『女人入眼』
★★★★☆
【Amazonの内容紹介】
『商う狼』で新田次郎賞をはじめ数多くの文学賞を受賞。
大注目の作家が紡ぐ、知られざる鎌倉時代を生きた女性たちの物語。
「大仏は眼が入って初めて仏となるのです。男たちが戦で彫り上げた国の形に、
玉眼を入れるのは、女人であろうと私は思うのですよ」
建久六年(1195年)。
京の六条殿に仕える女房・周子は、宮中掌握の一手として、
源頼朝と北条政子の娘・大姫を入内させるという命を受けて鎌倉へ入る。
気鬱の病を抱え、繊細な心を持つ大姫と、
大きな野望を抱き、それゆえ娘への強い圧力となる政子。
二人のことを探る周子が辿り着いた、母子の間に横たわる悲しき過去とは――。
「鎌倉幕府最大の失策」と呼ばれる謎多き事件・大姫入内。
その背後には、政治の実権をめぐる女たちの戦いと、
わかり合えない母と娘の物語があった。
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「大江広元の娘が主人公で、政子が毒親」という事前情報だけを得て読んだ。
てっきり主人公は、飛鳥井雅経と結婚した娘なのだろうと思っていたのだが、
全然違った。雅経は名前すら出てきていない。
これまで再三書かれてきた大姫の悲劇というものを、
こういう切り口でも描けるのか!! ……という驚きがあった。
鎌倉ものをいろいろ読んだ人にも楽しめるのではないかな。
以下、ネタバレ注意。
大姫が義高を思い続けて結婚を拒んでいる……というのが
政子が作った物語であり、彼女の意向に自分が逆らえば
周りの者たちに迷惑がかかるので、
大姫は母に逆らえず、自らの意志を示すことができない。
「政子は過たない。なぜなら、過ちを認めず、誰かの責にするから」
繰り返されるこのフレーズの表す内容が、最後まで一貫して描かれていた。
この時点で、北条がそこまで力を持っていたか?という疑問はあるけれども、
物語としては面白い。
「悪の一族・北条」という、割と古典的な設定ながらも、
陰湿な策謀というよりなりふり構わない実力行使だし、
悪女・政子がこれまでとはちょっと違う味付けをされている。
自ら育てた唯一の子である大姫を愛する思いは本当だが、
愛が、娘を本当に理解しようとする姿勢につながらず、
その愛ゆえに大姫が苦しみ続けるのだった。
頼家を擁する比企一族だけでなく、
三幡の乳母夫だった中原やその兄弟である大江が、
北条を脅かす政敵になりうる存在として描かれていたのも印象的。
宮中の女性たちの描き方も新鮮だった。
これまでかわいそうに描かれることが多かった任子は、明るく誇り高いまま。
そして、対任子では勝者として描かれることが多かった在子は、
実父の身分ゆえに不安定で、寄る辺ない立場にある女性として描かれていた。
義高事件の後の海野幸氏が、
事件を背負ったままの存在として登場してきたのはいいが、
主人公とくっついちゃったのはやや興ざめ。