伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

彼女が知らない隣人たち

2022-08-03 23:05:11 | 小説
 政治的な意識・関心がない39歳のパートタイマーが、職場の外国人実習生や難民支援団体を立ち上げたママ友との交流により目覚めて行く姿を通じて、外国人実習生の置かれている状況や排外主義/ヘイトクライムについて問題提起をする小説。
 前半では、共働きだがまったく家事分担を申し出ず家事がおろそかになるなら仕事をやめればいいという夫に対する不満、高校生になりほとんど関われなくなった息子の態度に対する不満、そして肥満気味のためダイエットを言い渡してあるが食欲旺盛な小学生の娘への不満など、自分が頑張っているのにそれが評価されないことへの不満を募らせ自分のことだけでいっぱいいっぱいになってまわりの者の悩みや実情に目が行かない主人公の姿に少し辟易します。自分は父母に虐待/ネグレクトされたという強い被害感情を持ち、自分は父母のようにならないといいながら、娘に対して強圧的に迫るというのもいただけません。もっとも、この段階で、女は仕事をしても家事育児もしなきゃならず、それでも評価されないからねと共感する読者も相当数いるものと思えます。
 その主人公が、同僚の外国人実習生との交流やママ友との交流を通じて、会社の外国人実習生ひいては労働者に対する姿勢、地域社会あるいは匿名の誹謗中傷者たちの排外主義的な意識・行動に対してごく素朴な正義感から憤り、問題意識を持っていく様子、並行して家族との間でも娘と和解し、息子に対しても理解する姿勢を見せて行く展開は、前半の主人公に共感する場合はもちろん、そうでない場合でも、自分のことしか考えられなかった主人公でも視野を広げていける、その中で問題を意識し関わっていけるという感覚を持ちやすく、また主人公の成長に共感を持てることから、読者に前向きの問題意識を持たせやすい巧みな構成と、読んだ後では思えました。


あさのあつこ 角川書店 2022年3月26日発行
「しんぶん赤旗 日曜版」連載
コメント
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