著者が「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎、1937年)を意識して書いた「僕は、そして僕たちはどう生きるか」の文庫本化の際に2015年に行った講演をベースにして、他の原稿と合わせて出版した本。
秘密保護法(特定秘密の保護に関する法律)制定という時代状況が日中戦争へと突き進んだ戦前の閉塞状況と重なり合うという危機感の下で行われた(4~6ページ)講演で「ほんとうのリーダーのみつけかた」というタイトルですので、政治の、あるいは選挙の話かなと思って読んだのですが、著者の言う「リーダー」は、自分の中にあって自分の行動を見て支えてくれる存在、ある意味で信念であり信条であるとともに、堅いだけでなく柔軟なしたたかさも兼ね備えた生きる姿勢のようなもののようです。
「みんなちがって、みんないい」という発言をめぐって、著者は、「『みんな同じであるべき』という同調圧力や『優秀なほど偉い』という能力主義があまりにも強烈に現場を縛り始めたときに初めて、「みんなちがって、みんないい」という一言が発せられることで、緊張を緩和する力を持つのです。怖いのは、『みんな同じであるべき』『優秀なほど偉い』という考え方が当たり前のように場を支配しているのに、指導者が「みんなちがって、みんないい」と、その言葉のほんとうの意味も考えず、さして慈愛の気持ちも持たずに、型どおりにそれを繰り返していることです。そうすると、言葉が空疎になり、なんの力も持たなくなります」と論じています(13~15ページ)。農村での選挙の不正を告発した高校生のエピソードを紹介しつつ告発者を批判する同級生の立場にも理解を示していることも併せ、理念、理論を前面に出すのではなくある種現場力というか、より状況に応じた是々非々をいう著者の立場は、現在の日本ではより大事なのかもしれません。

梨木香歩 岩波現代文庫 2022年5月13日発行
秘密保護法(特定秘密の保護に関する法律)制定という時代状況が日中戦争へと突き進んだ戦前の閉塞状況と重なり合うという危機感の下で行われた(4~6ページ)講演で「ほんとうのリーダーのみつけかた」というタイトルですので、政治の、あるいは選挙の話かなと思って読んだのですが、著者の言う「リーダー」は、自分の中にあって自分の行動を見て支えてくれる存在、ある意味で信念であり信条であるとともに、堅いだけでなく柔軟なしたたかさも兼ね備えた生きる姿勢のようなもののようです。
「みんなちがって、みんないい」という発言をめぐって、著者は、「『みんな同じであるべき』という同調圧力や『優秀なほど偉い』という能力主義があまりにも強烈に現場を縛り始めたときに初めて、「みんなちがって、みんないい」という一言が発せられることで、緊張を緩和する力を持つのです。怖いのは、『みんな同じであるべき』『優秀なほど偉い』という考え方が当たり前のように場を支配しているのに、指導者が「みんなちがって、みんないい」と、その言葉のほんとうの意味も考えず、さして慈愛の気持ちも持たずに、型どおりにそれを繰り返していることです。そうすると、言葉が空疎になり、なんの力も持たなくなります」と論じています(13~15ページ)。農村での選挙の不正を告発した高校生のエピソードを紹介しつつ告発者を批判する同級生の立場にも理解を示していることも併せ、理念、理論を前面に出すのではなくある種現場力というか、より状況に応じた是々非々をいう著者の立場は、現在の日本ではより大事なのかもしれません。

梨木香歩 岩波現代文庫 2022年5月13日発行