伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

いじめ加害者にどう対応するか 処罰と被害者優先のケア

2022-08-29 22:19:07 | 人文・社会科学系
 いじめ被害者に対するケアとして学校に行かなくてもいいというのは優しい排除であり、被害者が事実上学校から追われ加害者がそのまま通い続けるのはおかしい、加害者を処罰し、スティグマ化して(その用語法からして加害者をさらし者にしてということかと思いますが)いじめは恥ずかしいことだという認識を徹底させるべきだと主張する本。
 現実にはいじめ加害者への出席停止はほとんど行われていないのに匿名のアンケートでは相当な割合の教員が出席停止にすべきと考えている、このギャップは衝撃的ですと述べられています(10~11ページ)。私には、ネット世論では少しでも逸脱した者、軽微であれ「犯罪」を犯した者に対してはクビにしろだの処罰しろだのという声があふれかえるのと同じ構造だと思え、それを根拠に加害者を出席停止にするのが正義だというのであれば、あまりにプリミティブだと思います。
 学校が警察の力を借りたら負けと、学校内での解決を図ろうとする姿勢を批判し(7~9ページ)、行政の直接介入についても難しい問題としつつそれを受け入れる必要性を示唆しています(19~21ページ)。学校や教師の取り組みが鈍い、信用できないとして、だから警察や行政権力の介入を求めるのか、警察と権力は信じて任せられるのか。こういった言論は、市民の自由や権利を守る歴史的な活動の成果や流れを掘り崩し権力者・為政者を利するものではないかという疑問を持ちます。
 いじめ加害者を処罰してスティグマ化せよ、いじめは恥ずかしいことだとの認識を徹底させろと繰り返し強調してきた著者が「おわりに」では、「いじめの問題については、いじめ自殺が起きるたびにマスコミが騒ぎ立て、加害者や学校側が集団リンチもかくやという勢いで批判されるのですが、そうした騒ぎが毎回『祭り』的に消費されてしまい、本質的な対策にも解決にもほとんど結びついていないという現状があります」と嘆いています(61ページ)。私には、そのマスコミによる加害者叩きは、著者が求めている加害者の処罰、スティグマ化そのものだと思えるのですが。


斎藤環、内田良 岩波ブックレット 2022年7月5日発行
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