旅行の際のトラブルや事故についての裁判例を検討し解説した本。
旅行については、旅行業者のほとんどが標準旅行業約款を用いているため、民法等の法律解釈よりも旅行業約款の解釈適用が重要になります。募集型企画旅行(パッケージツァー)では、実務上はパンフレットと旅行条件書が具体的な契約内容(旅行業者の説明内容)となり、旅行業者は手配完成債務(航空券やホテルの予約等)を負うだけでなく、旅行計画通りにできなくなったときにできるだけ計画に沿った旅行サービスの提供を受けられるように必要な措置を講じる旅程管理債務や旅行者の安全を確保するために旅程やサービス提供者の選択等に関して十分に調査し合理的な措置をとる等の安全確保義務、旅程の重要な変更があった際に旅行業者に過失がなくても一定率の変更補償金を支払う旅程保証責任、旅行参加中の偶然の事故による旅行者の損害について旅行業者に過失がなくても一定の補償金を支払う特別補償責任等が定められています。
旅程に重要な変更があった場合、旅行者は出発前であれば取消手数料を支払うことなく解除できることが約款上定められています。旅行業者がその変更を速やかに旅行者に伝えなかった場合、旅行者は解除権の行使の機会を奪われることになります。この場合に、裁判例では、旅行業者の旅程変更や説明義務違反によって財産的損害は生じていないとして慰謝料のみを認め、あるいは変更された旅行サービスを受けているから損害があってもその利益と相殺するなどとしているのに対し、それでは説明を怠った旅行業者のやり得を許すことになりおかしい、すぐに知っていれば旅行者が解除したはずの場合は旅行代金を返還させるべきと論じられていて(108~112ページ、184~192ページ、193~202ページ、208~219ページ。164~175ページは微妙ですが)、兵庫県弁護士会消費者保護委員会の戦う立場が見えて参考になりました。
旅行中の事故に関する安全確保義務については、旅行業者はサービス提供者ではないことを重視して、サービス提供者の選択に過失があったかを検討して、旅行業者の責任を否定する判決が多く、現在に至るまで旅行中のバス事故について旅行業者の安全確保義務違反が認められたという事例は見当たらないとされています(226ページ)。しかし、海外旅行の場合に個人の被害者が、バスの運行業者に対して損害賠償請求をするとか裁判を起こすことは困難です。当該国(トルコ)の法律で旅客運送のためには交通省の許可が必要とされているのに無許可の業者を選択した(東京地裁平成25年4月22日判決:242~249ページ)とか、当該パイロットが事故当時所定の習熟度試験に合格しておらず不定期便の運行を許されていなかった(東京地裁平成22年12月24日判決:259~264ページ)というケースでさえ旅行業者のサービス提供機関選定に安全確保義務違反がなかったとするのは、あんまりだと思います。
自分の経験に乏しい分野の裁判例をまとめて読むのは、いつも勉強になりまた知的好奇心をそそられるのですが、旅行トラブルでは標準旅行業約款で旅行業者の責任がいろいろと定められていて民法レベルよりもそちらに注意すべきこと、いくつかの論点で裁判上高いハードルがあることを知り、そういう事件に当たったら頑張らないとねと思いました。
兵庫県弁護士会消費者保護委員会編 民事法研究会 2022年4月15日発行
旅行については、旅行業者のほとんどが標準旅行業約款を用いているため、民法等の法律解釈よりも旅行業約款の解釈適用が重要になります。募集型企画旅行(パッケージツァー)では、実務上はパンフレットと旅行条件書が具体的な契約内容(旅行業者の説明内容)となり、旅行業者は手配完成債務(航空券やホテルの予約等)を負うだけでなく、旅行計画通りにできなくなったときにできるだけ計画に沿った旅行サービスの提供を受けられるように必要な措置を講じる旅程管理債務や旅行者の安全を確保するために旅程やサービス提供者の選択等に関して十分に調査し合理的な措置をとる等の安全確保義務、旅程の重要な変更があった際に旅行業者に過失がなくても一定率の変更補償金を支払う旅程保証責任、旅行参加中の偶然の事故による旅行者の損害について旅行業者に過失がなくても一定の補償金を支払う特別補償責任等が定められています。
旅程に重要な変更があった場合、旅行者は出発前であれば取消手数料を支払うことなく解除できることが約款上定められています。旅行業者がその変更を速やかに旅行者に伝えなかった場合、旅行者は解除権の行使の機会を奪われることになります。この場合に、裁判例では、旅行業者の旅程変更や説明義務違反によって財産的損害は生じていないとして慰謝料のみを認め、あるいは変更された旅行サービスを受けているから損害があってもその利益と相殺するなどとしているのに対し、それでは説明を怠った旅行業者のやり得を許すことになりおかしい、すぐに知っていれば旅行者が解除したはずの場合は旅行代金を返還させるべきと論じられていて(108~112ページ、184~192ページ、193~202ページ、208~219ページ。164~175ページは微妙ですが)、兵庫県弁護士会消費者保護委員会の戦う立場が見えて参考になりました。
旅行中の事故に関する安全確保義務については、旅行業者はサービス提供者ではないことを重視して、サービス提供者の選択に過失があったかを検討して、旅行業者の責任を否定する判決が多く、現在に至るまで旅行中のバス事故について旅行業者の安全確保義務違反が認められたという事例は見当たらないとされています(226ページ)。しかし、海外旅行の場合に個人の被害者が、バスの運行業者に対して損害賠償請求をするとか裁判を起こすことは困難です。当該国(トルコ)の法律で旅客運送のためには交通省の許可が必要とされているのに無許可の業者を選択した(東京地裁平成25年4月22日判決:242~249ページ)とか、当該パイロットが事故当時所定の習熟度試験に合格しておらず不定期便の運行を許されていなかった(東京地裁平成22年12月24日判決:259~264ページ)というケースでさえ旅行業者のサービス提供機関選定に安全確保義務違反がなかったとするのは、あんまりだと思います。
自分の経験に乏しい分野の裁判例をまとめて読むのは、いつも勉強になりまた知的好奇心をそそられるのですが、旅行トラブルでは標準旅行業約款で旅行業者の責任がいろいろと定められていて民法レベルよりもそちらに注意すべきこと、いくつかの論点で裁判上高いハードルがあることを知り、そういう事件に当たったら頑張らないとねと思いました。
兵庫県弁護士会消費者保護委員会編 民事法研究会 2022年4月15日発行