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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

労働者派遣法[第2版]

2022-08-25 21:23:36 | 実用書・ビジネス書
 労働者派遣法についての解説書。
 編著者・著者紹介(巻末)を見ると執筆者は全員学者であるとともに、「初版 はしがき」によれば全員厚労省の審議会等の委員として労働者派遣法の立法・改正に関与しているとのことです。そういうことからか、はしがきに表れた著者の自負とは逆に、元々が読みにくい労働者派遣法の法令・指針・業務取扱要領等の用語をそのまま用いた本文は著しく読みにくい。私は、一応労働者派遣法の構造・概要は学習済なので(労働者派遣法関連も扱っている二弁の「労働事件ハンドブック」等で編集代表をしていましたし)書いてあることは(予め)わかるのですが、それでさえ流し読みすると文意が取れず、恐ろしく眠気を誘う部分が長い。労働者派遣法をこの本で学ぶという人が最初から通読できたら、私はその人に賞賛を惜しみません。
 そして、この本の姿勢は、派遣関連業務を行う事業者の正当性というか、怪しげな印象を払拭することに多大な熱意を持っていると感じられます。職安法で禁止されている「労働者供給」と派遣の関係については、本質的には派遣は労働者供給と同じだけど、職安法の禁止規定は派遣法の派遣を除外しているから禁止されないだけ(言ってみれば、賭博は刑法で禁止されているが、公営ギャンブルは法律で正当化されているから適法なのと同じようなもの)と私は認識していますが、この本の姿勢は労働者派遣は適法だというところからスタートしてそうである以上労働者供給が禁止されている理由もそれに合わせて考え直す必要があるそうです(49~50ページ。もっとも、279ページでは、別の執筆者が私の認識と同様の記述をしていますが)。派遣はもともと正当なんだと言いたいがために歴史も書き換えようってことですか。派遣禁止業務の説明でも、禁止されている港湾、建築労働者も格別に実質的には労働者派遣システムがあるなど、禁止されているから本質的に派遣が許されないわけではないという説明に紙幅を割いています(86~96ページ)。確かに、類書にはない踏み込んだ説明ですが、力の入れどころが、派遣労働者保護じゃなくて、事業者の擁護にすごく偏っている印象を持ちます。関係者なら誰でも覚えてるレベルのテンプスタッフの容姿ランク(A、B、C、D)付き名簿流出事件を紹介するときも「大手人材派遣会社」(78ページ)と匿名にして気を遣ってますし。
 官僚ではなくて学者が書いたという意味がありそうな箇所としては、第6編第7章の雇用関係の終了(派遣労働者の解雇・雇止め:234~245ページ。雇用安定措置をてこに、派遣元との交渉などから有期派遣労働者にも雇用継続の合理的期待が認められるべきことを主張しているところは、労働者側の弁護士としては少し励まされます。裁判実務としてはハードルが高いですけど)、第7編第5章の派遣先の使用者性(団交応諾義務等:275~286ページ)、第10編第2章・第3章(派遣法違反の民事効、労働契約申込みみなし:327~356ページ)くらいでしょうか。派遣労働契約で派遣先(就業場所)とその派遣先ごとに合意されている賃金は、就業規則の変更によっては変更されないものとして合意したものとみなされるから、派遣先から中途解約されて派遣労働者に派遣元が別の派遣先を紹介した場合でも、派遣労働者が同意しなければ、賃金を切り下げることはできないし、他の派遣先への就労を命じることもできない(205~207ページ)という指摘にはハッとさせられました。現実にはそれを武器に戦ったとき、派遣元は契約更新拒絶してくることが予想され、どれだけ使えるかは心許ないですが。


鎌田耕一、諏訪康雄編著 三省堂 2022年4月25日発行(初版は2017年2月)
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