伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

潔白の法則 上下

2022-08-14 18:32:10 | 小説
 主人公である敏腕弁護士マイクル・ハラーが、自ら運転していたリンカーンのトランクからかつての依頼者である義捐金詐欺師サム・スケールズの銃殺死体が発見されたため、逮捕されて殺人罪で起訴され、無実/潔白を証明するために奔走するリーガル・サスペンス。「リンカーン弁護士」シリーズの第6作。
 毎度感心するのですが、法廷での駆け引き、予定外の展開となった際の準備していた材料の見切り、プランAからプランBあるいはプランCへの切り換えの判断の描写は、弁護士の目から見てもリアリティがあります。弁護士経験のない作者が、これを、それも6作も書けるということは驚きです。
 他方において、ミステリー小説という点から見ると、謎の部分、布石と見える部分がせいぜい示唆にとどめられて十分解明・解説されていないきらいがあり、フラストレーションを残します。小説世界とは違って現実の事件では、多くのことは結局はわからず、また予定・想定していたことができないままに放置されることは多々あるもので、裁判もの・弁護士ものとしては、特に私のような業界人の目にはむしろそれがリアリティを感じさせるのではありますが。
 シリーズ第5作(罪責の神々:2013年)から第6作まで7年の期間が空いたことについて、訳者あとがきでは、その間に新たに登場したレネイ・バラードシリーズの評判が良かったためにそちらに作者が力を注いでいたことも大きかったせいではないか(下巻371ページ)とされています。そうであれば、今後もシリーズが続くことになりますが、法廷シーン中心のリーガル・サスペンスを6作も続けて書けていること自体が奇跡に近いと言えますし、7年空いた上で主人公が被告人という設定を用いたこと自体ネタ詰まりを予感させます。リーガル・サスペンスファンの1人としては、作者の健闘を切望しているのですが。


原題:The Law of Innocence
マイクル・コナリー 訳:古沢嘉通
講談社文庫 2022年7月15日発行(原書は2020年)

第1作 リンカーン弁護士:2012年7月19日の記事で紹介
第2作 真鍮の評決:2012年7月26日の記事で紹介
第3作 判決破棄:2016年4月27日の記事で紹介
第4作 証言拒否:2016年5月12日の記事で紹介
第5作 罪責の神々:2018年4月21日の記事で紹介

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