伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

日本アニメ史 手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年

2022-07-09 23:11:17 | ノンフィクション
 1917年と言われる日本国産アニメの初制作から、「鉄腕アトム」のテレビ放映、ヤングアダルト世代のニーズを引き出した「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」、監督の作家性を注目させるようになった「風の谷のナウシカ」等の画期をなす作品の制作の背景等を解説した本。
 手塚治虫がアニメの制作を始めたのは1960年とのことですので、サブタイトルの付け方には少し難がありますが、そこはきっと著者の希望ではなく出版社の販売政策なんでしょう。
 それぞれの作家や制作会社の事情、作品の生まれた背景、他の作品等の影響など、知らなかったことがわかって知的好奇心を満たせた感じがしますが、その分、著者自身「あとがき」で最近20年間の扱いは塗炭の苦しみと書いている(292ページ)ように、近年の領域は、ただ有名作品が羅列されているだけで分析がなされていないに等しいのは残念に思えました。
 「あしたのジョー」は虫プロだったんですね。小見出しは「反手塚から生み出された『あしたのジョー』」となっています(114ページ)が、本文には、手塚治虫が反対したとかの説明はありません。ここも出版社編集者が売るために付けた小見出しでしょうか。


津堅信之 中公新書 2022年4月25日発行
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ミュシャ作品集[増補改訂版] パリから祖国モラヴィアへ

2022-07-08 23:34:04 | 人文・社会科学系
 アール・ヌーヴォーの代表的な画家アルフォンス・ミュシャの作品の図版を収録し、ミュシャの創作活動と生活等を紹介する本。
 ほぼ無名だったミュシャを一躍人気画家にした大女優サラ・ベルナール主演の歴史劇「ジスモンダ」のポスター制作の経緯については、解明されておらず、一説によるととか別のストーリーもあるなどと風聞を並べてさじを投げています(20ページ)。時代の寵児にしては派手な女性関係はなく「女性の影は意外と薄く、艶聞、『浮いた話』とも縁遠い」(148ページ)のだそうです。作品の傾向からすれば、裸婦のモデルのデッサンを相当な頻度でしているはずですが、プロ意識・自制心が強かったのでしょうね。オカルトが好きでフリーメイスンのメンバーでもあった(122~123ページ)そうですから、好みの向きが違ったということなのかもしれませんが。
 図版は概ね見たことがあるもので、目新しさは感じませんでしたが、「パリスの審判」の万年カレンダー(101ページ)が、たぶん私には初見で、下のおっちゃん3人組(「真実の口」みたいな)がちょっと気に入りました。「ウェスト・エンド・レビュー」誌表紙(127ページ)の右上の天使とかも。


千足伸行 東京美術 2022年4月10日発行(初版は2012年3月)
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薬屋のタバサ

2022-07-07 20:40:10 | 小説
 とある町で先祖代々引き継がれた薬屋を10年余り前に父親が死んで以来一人で営んできた薬剤師の平山タバサの下に、過去を逃れてその町に流れ着いた語り手の山崎由美が転がり込んだところから、深くつながっているように感じられる町の人たち、タバサが調剤する怪しげな薬、幻影とも実在とも判別できない目の前に現れる人たちなどに翻弄されながら、由美が過ごす日常とタバサや町の人たちとの関係を夢・幻想とうつつを行き来しながら描いた小説。
 タバサも由美も、その来歴がわかったようなわからないような、タバサの薬の正体も、登場する幻影のような人々とこの町の構造も、解明されたようなやっぱりわからないような、はっきりさせたい読者にはもやもや感の残る、想像力を働かせたい読者には自由に解釈する幅のある、そういう作品かなと思います。
 もっとも、前半と後半を隔てる、由美との関係・庭の池の扱いをめぐるタバサの2つの決意については、タバサの人柄への理解も含め、もう少し説明というか、気持ちの変化の背景事情の描き込みが欲しかったように思います。私の読み方が浅いということかも知れませんが。


東直子 新潮社 2009年5月20日発行
「波」連載
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ぼけますから、よろしくお願いします。おかえりお母さん

2022-07-06 19:28:36 | ノンフィクション
 母親が認知症に罹患し、呉での高齢の父親との2人暮らしを、東京での映像制作等の仕事をしながらときおり帰郷して見守る著者の目から父母の関係、自分と母あるいは父との関係とその変化を書き綴った中国新聞連載記事を出版したもの。
 「おかえりお母さん」の意味は154ページで明らかにされますが、最初にサブタイトルを見たときの予想とは違い驚きました。
 相手が誰かもわからなくなるには至らず、徘徊症状もなく、認知症が進んで母が父(夫)に甘えるようになるというのは幸せなケースと思われます。朝が来て起こされると蒲団の中から父(夫)に手を伸ばして「ほんならお父さん、起こしてやぁ」という母に父が母の手を握って蒲団から引っ張り出し「おはよう」と挨拶するということに「なんだか娘の私が気恥ずかしくなるほどの仲むつまじさ」「娘としては目のやり場に困ります」というのです(36~37ページ)が、夫婦仲がいいことは仲違いしてるよりよほどいいことで、気恥ずかしく思うなどと言わず、微笑ましく見ていればいいと思います。昔、「チャーミーグリーン」のCMで高齢者夫婦が手をつないで歩くのを気持ち悪いと声高にいう人びとがいたのを残念に思いました。高齢者夫婦が仲良くするのに人目をはばからせるような風潮はなくしていきたいところです。
 認知症患者の症状や心情に関しては、近年医師や介護関係者がたくさんの本を書いていて、認知症になったから突然重度になるわけでも、また何もわからなくなるわけでもなく、認知や記憶が悪くなっているのは本人がよくわかっていて、だからこそ不安になりあるいはそれを認めたくなくてイライラしているとかは、わりと広く知られるようになっています。この本は、専門家の側からではなく、家族の側から、1つの例について具体的に書くことで、読みやすく実感しやすいという点が売りかなと思いました。


信友直子 新潮社 2022年3月15日発行
中国新聞連載
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アンチ整理術

2022-07-05 22:03:27 | 実用書・ビジネス書
 「整理」をキーワードにして、思考や人間関係などを論じた本。
 「まえがき」で、「僕にはその方面の『整理術』というものはない。はっきりいってしまうと、必要がなかったのだ。整理する時間があったら、研究や創作や工作を少しでも前進させたい、と思っていた。無駄なことに時間を使うなんて馬鹿げている」「それを書いてしまうと、ここで本書の一番大切な結論はお終いとなる」と言い切っています(12~13ページ)。「片づいているから仕事が捗る、といった感覚は、少なくとも研究者の間には見られない。むしろ逆で、片づいていない部屋の主の方が、研究が捗っている場合が、僕が認識する限りでは多かった」(35ページ)とも。我が意を得たり、というところです。私は、事務所も自宅も、とっちらかしているもので (^^;)
 仕事について、やりたくないと思う気持ちを切り換える必要はない、「『嫌だな』と思っている、そのままの状態でやる。それが正解である。嫌な気持ちを『やりたい』気持ちに切り換えるのは、かなり難しい。それよりも、『嫌だ』と思いながら作業を始める方が、ずっと簡単なのだ」(43ページ)というのは、至言というべきかもしれませんが、同時に抵抗感もあります。「仕事であれば、その本質は何だろうか?人によって違うと思われるが、多くの場合、賃金を得ることが目的である。自身を成長させるため、誰か他者の機嫌を取るため、世間体のためなど、いろいろな雑念があるかもしれない。ときどき、その第一の目的を思い出して、目の前の小さな問題を俯瞰してみることで、少しは冷静になれるだろう」(162~163ページ)とか、「得意なことは好きなことではありません。たまたま一致していると、働きすぎて、健康を害することになります」「得意なものをいやいややっているのが理想的です」「嫌なものや、苦手なものだからこそ、効率を上げたいですよね。自然な方向性だと思います。ただ、好きになろう、と勘違いしないこと。嫌いなままで良く、単に効率を上げることに専念するだけです」(204~205ページ)など、整理術的な部分より、仕事に関する捉え方、幾分突き放した見方の方にいろいろ感じるものがありました。


森博嗣 講談社文庫 2022年3月15日発行(単行本は2019年11月:日本実業出版社)
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祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く

2022-07-04 23:04:03 | ノンフィクション
 ホームレスや失業者、非正規労働者などの生活苦にあえぐ人々やさまざまな災害の被災者などを取材し、現在の日本の現状と、その中でオリンピックを強行しようとし強行した政府の姿勢を批判的に描き出した共同通信配信記事をまとめた本。
 生活に苦しむ人々を放置してオリンピック実施を優先することへの批判が基調ですが、オリンピックへの出場や聖火リレーを希望していた人たちの延期の際の失意等も書いていて、バランスを図っている感じもします。著者がそういう配慮をするようになった/丸くなったということなのか、共同通信の取材という枠組みのせいかはわかりませんが。
 ネットカフェ難民が、自分で生活保護申請をしたときには窓口で追い返されたが、著者が同行して申請するとすぐに申請が受理され、緊急事態宣言でネットカフェが閉鎖された後緊急事態宣言が解除される5月6日までホテルに無料滞在が認められ、その間にアパートを探して見つかったらそこに入ればいい(敷金や引越代も生活保護費で出す)と言われたというエピソード(34~35ページ)も印象的です。そのときは、著者の名前が効いたのか、共同通信が効いたのか。個別ケースで見るとよかったねと思いますが、我が国の行政のあり方を考えると哀しいところです。


雨宮処凛 岩波書店 2022年3月25日発行
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日本の絶景無人島 楽園図鑑

2022-07-03 20:59:25 | 趣味の本・暇つぶし本
 日本国内の無人島37箇所を訪れて、海と砂浜・珊瑚礁等の絶景写真を掲載し、その地の様子、観光客や潮干狩り等で訪れる地元民などの様子などを、1箇所2~4ページでとりまとめた本。
 誰でも知っているほど有名なところではないけれども、誰も知らないようなところではなく、地元では知られているとか知る人ぞ知るというポイントだということが正直に語られ、どうやったら行けるかとか、いつ頃が見頃かとかも紹介されています。その気になれば行けるよと誘っている感じです。写真を見ていると青い空と青い(エメラルドグリーンとかも含めて)海に惹かれて行ってみたいなぁという思いを持ちますが、取り上げている島は沖縄が多く、東京は小笠原諸島の1箇所、東京に一番近いのが伊豆半島の先端(ここは、9月中旬の週末に訪れると、一時は入場制限が行われるほどの混雑状況だったとか:141ページ)で、なかなか行ってみるというのは難しいのが残念です。那覇の近くや、学生の時に行った慶良間諸島のそばもあるので、その頃に知っていれば行けたかも、とは思いますが。


清水浩史 河出書房新社 2022年3月30日発行 
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冤罪法廷(上下)

2022-07-01 22:13:04 | 小説
 無実なのに有罪判決を受け収監されていることを訴え助けを求める手紙を審査して本当に無実に思える事件を無償で(篤志家からの寄付等により)弁護する弁護士たちの活躍を描いた小説。
 非常救済手続(日本でいえば再審請求手続だと思います)のため陪審審理ではないですが、裁判官の指揮の下弁護側検察側の証人尋問が行われて法廷シーンが相応にあり、なぜ無実の者が有罪判決を受けるに至ったか、その陰にあった陰謀が描かれており、リーガル・ミステリーと位置づけて読むことができると思います。
 実在の弁護士、実在の事務所をモデルにしている(あぁなんて無欲で誠実で理念的な、刑事弁護士の鑑のような人なんでしょう)ためか、主人公の弁護士が、あまりに無欲で、依頼者が巨額の補償金を受けてもなお報酬金さえ取らない上、女性関係さえ乱れないのが、ちょっとグリシャムらしくないというか、展開の予想を外します。
 主人公の清廉で無欲な弁護士でない、不法行為による損害賠償請求訴訟専門の弁護士の報酬金は今では40%なんですね(下巻196ページ)。グリシャムの昔の小説では、たいてい30%とか3分の1(33%)だった記憶があるのですが。私は、私の一番の専門領域の解雇事件で金銭解決した場合にいい水準の和解をしたときは(賃金12か月分以上の解決金の時は賃金12か月分を超える部分については)20%+消費税(それ以下の部分は10%+消費税)をいただくことにしているのですが、もっともらってもいいのかも…


原題:The Guardians
ジョン・グリシャム 訳:白石朗
新潮文庫 2022年1月1日発行(原書は2019年)
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