Sightsong

自縄自縛日記

ミヒャエル・エンデ+ヨーゼフ・ボイス『芸術と政治をめぐる対話』

2019-03-30 10:56:21 | アート・映画

ミヒャエル・エンデ+ヨーゼフ・ボイス『芸術と政治をめぐる対話』(岩波書店、原著1989年)を読む。

1985年に行われた対話の記録である。ヨーゼフ・ボイスは翌年のはじめに亡くなっているが、そうとは感じさせないエネルギーと切れがある。

作品のみから偏屈で小難しいアーティストだと思い込んでいたボイスが、実は剽軽で饒舌な人だと知ったのは、アンドレス・ファイエル『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』を観てはじめて知ったことだ。この対話でも、破綻があろうとなかろうと気にせず、ときには脊髄反射のようにすばやく、ミヒャエル・エンデやその場の言説を挑発するように、ことばの数々を繰り出している。

対話からは、ふたりの違いが明らかになってくる。エンデは芸術を職人芸のようにとらえ、ボイスは芸術を社会の多くの人たちが働きかけていくもののように話す。エンデは具体イメージを大事にし、ボイスはまずは抽象を走らせる。エンデは既存の経済社会や論理構造に疑問を抱き、それに亀裂を入れるように異物を創り出す。一方ボイスは既存システムを対置するのではなくそのものの内部の配置を自由に変えようとする(ドゥルーズ=ガタリ的)。

だがそれは単純で明確な違いではない。エンデが旧来型の職人的芸術家で、ボイスがその根本からひっくり返そうとしたメタ芸術家、とばかりは言えない。ふたりとも単一のものをイデオロギーだとして憎み、世界システムに対して放り込む異物を考え、策動し続けてきた。

すれ違っているようでいて、実は、別々の位相で新たな言説を次々に提示している対話だと言うことができる。ふたりの衝突も共感もあって面白い。このときから三十余年前が経って、世界にはまた別の歪みや亀裂が生まれ、さてエンデやボイスが存命でふたたび対話を行ったならどのように変わっただろうと想像してしまう。

●ヨーゼフ・ボイス
アンドレス・ファイエル『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』
ロサンゼルスのMOCAとThe Broad
ベルリンのキーファーとボイス
MOMAのジグマー・ポルケ回顧展、ジャスパー・ジョーンズの新作、常設展ペーター・コヴァルト+ローレンス・プティ・ジューヴェ『Off The Road』
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ


太田昌国『さらば!検索サイト』

2019-03-30 10:40:38 | 政治

太田昌国『さらば!検索サイト』(現代書館、2019年)を読む。

太田氏のさまざまな短い連載記事をまとめたものであり、氏の思想に接してきた人にとってはさほどの新しさはない。それはつまり、氏がずっと一貫性をもって諸問題について語ってきたということに他ならない。

中南米の政治、とくにチリ軍事クーデター(もうひとつの「3・11」)。愚劣で醜悪な日本政治。死刑。拉致問題と日本政府の不作為。パトリシオ・グスマン。ガルシア・ロルカ。やはり読みすすめていくと刺激が多い。

●太田昌国
太田昌国の世界 その28「「従軍慰安婦」論議の中の頽廃」
太田昌国の世界 その24「ゲバラを21世紀的現実の中に据える」
太田昌国の世界 その15「60年安保闘争後の沖縄とヤマト」
60年目の「沖縄デー」に植民地支配と日米安保を問う
太田昌国『「拉致」異論』
太田昌国『暴力批判論』
『情況』の、「中南米の現在」特集


ヨアヒム・バーデンホルスト+シセル・ヴェラ・ペテルセン+北田学@渋谷Bar subterraneans

2019-03-30 09:30:09 | アヴァンギャルド・ジャズ

渋谷のBar subterraneans(2019/3/29)。

Joachim Badenhorst (cl, bcl)
Sissel Vera Pettelsen (vo, effect, jew's harp)
Manabu Kitada 北田学 (cl, bcl)

ヨアヒム・バーデンホルストとシセル・ヴェラ・ペテルセンとのデュオツアーが始まっている。(このふたりとギターのミケル・プラウグとのトリオEquilibriumでの来日予定だったがデュオとなった。)

この日は北田学さんが加わってのトリオ。北田さんはこのBar subterraneansで定期的にライヴをやっていて、気になる場所だった。渋谷と原宿の間にあって、入口がわからず通り過ぎてしまった。入ってみるととても良い場所である。

ヨアヒム、北田さんともにクラとバスクラの2本。シセルさんはテナーを出さずヴォーカルとエフェクター、さらに口琴。北田さんの音については乾いた感じの印象を持っていたのだが、ヨアヒムとの対比のためか、粘りのある太い線でつながっているような音に聴こえた。ヨアヒムはというと、やはり、これ見よがしな音は決して発しないのに存在感をもって迫ってくる。シセルさんは自分の声を含めさまざまな音を使い、実に巧みにハコ全体のサウンドを創出する。この個性的な3人の音が、ときおり違う方向から聴こえてきて、また互いに自然に介入し合って誰の音なのかわからなくなる瞬間もあって(ヨアヒムも何か呟いていたりして)、非常に刺激的だった。朦朧とさせられるのにずっと覚醒もしているような感覚。

最後に、「A Love Supreme」的に包みながら、「You Don't Know What Love Is」を引用したりもするような演奏。シセルさんが「You don't know, you don't know」と囁き、ヨアヒムが珍しくスタンダードを吹くという奇妙な面白さがあった。

Fuji X-E2、7artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●ヨアヒム・バーデンホルスト
Poem of a Cell Sound / Film Installation & Concert in Tokyo@ドイツ文化センター(2018年)
Spontaneous Ensemble vol.7@東北沢OTOOTO(2017年)
ギレルモ・セラーノ+ヨアヒム・バーデンホルスト+マルコス・バッジャーニ『Lili & Marleen』(2016年)
LAMA+ヨアヒム・バーデンホルスト『Metamorphosis』(2016年)
ハン・ベニンク『Adelante』(2016年)
安田芙充央『Erik Satie / Musique D'Entracte』(2016年)
ダン・ペック+ヨアヒム・バーデンホルスト『The Salt of Deformation』(-2016年)
ヨアヒム・バーデンホルスト『Kitakata』(2015年)
カラテ・ウリオ・オーケストラ『Garlic & Jazz』(JazzTokyo)(2015年)
カラテ・ウリオ・オーケストラ『Ljubljana』(2015年)
パスカル・ニゲンケンペル『Talking Trash』(2014年)
ヨアヒム・バーデンホルスト+ジョン・ブッチャー+ポール・リットン『Nachitigall』(2013年)
ハン・ベニンク『Parken』(2009年) 

●北田学
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
北田学+鈴木ちほ@なってるハウス(2017年)