Sightsong

自縄自縛日記

『民藝の100年』展@東京国立近代美術館

2021-11-10 21:05:18 | 思想・文学

東京国立近代美術館で開催中の『民藝の100年』展を観てきた。可愛い飴缶付きのチケットを選んだりして(こういうものが好きなのです)。

民藝とは、なにも立派な職人や芸術家の作品でなくても、実生活で使われているものに美を見出す運動だ、くらいに認識していた。いやもちろんそれは間違いではないのだけれど、今回の展示には実に多くの発見があって愉快だった。

運動が運動たるためには、他の地域や時代のものと比較するための条件が必要だった。それがたとえば他言語の習得や他国文化への接近であり(高等教育)、鉄道という移動手段であり(「裏日本」などを探索する)、視線の恣意的な変更であり(ミクロに視たり、切り出したり、置きなおしてみたり)、出版や美術展の開催であった(アーカイヴや視線の共有)。つまりインフラや文化の底上げがあってこその民藝運動、それは近代ゆえ成立するものに他ならなかった。それにしても、「郷土」という観念さえも近代の発明だと言われると驚いてしまう。

柳宗悦らは世界かぶれであり、日本語と英語をちゃんぽんで喋りながら鼈甲眼鏡に作務衣、まあ奇妙な集団が歩いていたとのこと。たしかにそのポテンシャルがあってこそ、長野の容器から北欧を思い出したり、沖縄の壺屋に朝鮮の村々を思い出すなど、新たな視線の獲得が可能だったのだろう。それに、河井寛次郎らは東京工大(現)の窯業科出身であり、近代の産業技術も運動には必要だったということになる。

そういえば2016年に沖縄県立博物館・美術館で観た『日本民藝館80周年 沖縄の工芸展-柳宗悦と昭和10年代の沖縄』もおもしろかった。そこでの発見は、「日本側と沖縄側とがお互いに求めるものが異なっていた」ことだった。つまり視線のもとがどこにあるかも重要だということだ。

盛りだくさんだったこともあって時間不足。また観に行かないと。

●参照
アイヌの美しき手仕事、アイヌモシリ
「日本民藝館80周年 沖縄の工芸展-柳宗悦と昭和10年代の沖縄」@沖縄県立博物館・美術館
短編調査団・沖縄の巻@neoneo坐
「まなざし」とアーヴィング・ペン『ダオメ』


NK3@池袋Independence

2021-11-10 00:38:06 | アヴァンギャルド・ジャズ

池袋のIndependence(2021/11/9)。

Naotaka Kusunoki 楠直孝 (p) 
Yutaka Kaido カイドーユタカ (b) 
Shinichiro Kamoto 嘉本信一郎 (ds) 

楠直孝さんのプレイに接するのは二度目。前回は村上寛さんのリーダーバンドで、独特さの印象が強かったこともあって、かれ中心のピアノトリオを観る機会ができたのは嬉しい。

冒頭の「アルマンドのルンバ」(チック・コリア)からもう驚かされる。身体を揺らしながら曲に入ってゆき、その運動が指に伝えられる。次はもっと驚きの「You Are the Sunshine of My Life」(スティーヴィー・ワンダー)。この曲をジャズで、しかも抒情的にも詩的にも聴こえるように演奏するとは。とはいえ静かな雰囲気にはとどまっておらず、鍵盤を弾く左右の動きはゴージャスでもある。同じパターンの繰り返しにカイドーさんのベースが重なって巧妙、また和音のダイナミクスもある。最後に曲独自の不思議なイントロの旋律を交えてきた(あとで楠さんに訊くと、全音のみで駆け上がるホールトーン・スケールであり、たとえば、アニメ『不思議の国のアリス』でアリスが穴に落っこちる場面に使われているのだとか)。それにしてもスティーヴィーは良い曲を書くもので、前回の村上さんのライヴでも「I Can't Help It」が演奏されていた。

「Take Five」(デイヴ・ブルーベック)も真っ当ではないアプローチ。変わったコード進行で、錨役がベース、駆動役がドラムス。ただソロがベースに渡されるとお互いの立場が逆転する。楠さんは椅子も叩き、最後はキメキメ。オリジナルを挟んで、「Moment's Notice」(コルトレーン)ではバップのノリノリ。嘉本さんの見せ場があり、上へ上へと高速で積み上げてゆくようなリズム構築に惹き付けられる。

セカンドセットは「雨上がり」という曲ではじまり、縦横に動き続けるベースに加え、階段を駆け上がることを繰り返しつつ動きが周回する彗星のようになってゆくドラムスが良い。オリジナル「星の数」を経て、やはりオリジナル「飄然として」では音風景が次々に変わるおもしろさがある。楠さんは「昔はあれこれ曲に詰め込んでいたけれど大人になって抑制するようになってきた」と笑い、前者が「飄然として」、後者が「星の数」だと話した。だがこのように聴いていると、スタイルはいろいろあっても、詰め込みと披露が楠さんの素晴らしい美学なのかなと思えてきた。

「Lotus Blossom」(ケニー・ドーハム)でのリズムの濃淡もおもしろく、続くオリジナル「おうち」での全員でのはしゃぎようはさらに愉快。弓弾きでギコギコとした音を立てて皆が暴れ、ふとした潮目で抒情に入り、次第に強く強くなってゆく。この大きなうねりが脈動のようだ。そして最後に短いアンコール演奏。

また観に来なければと思わせられる愉しさ。

Fuji X-E2、Carl Zeiss Jena Flektogon 35mmF2.4 (M42)

●楠直孝
村上寛@池袋Independence(2018年)

●カイドーユタカ
山崎比呂志 4 Spirits@新宿ピットイン(2017年)
本多滋世@阿佐ヶ谷天(2016年)
AAS@なってるハウス(2016年)
旧橋壮カルテット@新宿ピットイン(2014年)