ホルヘ・サンヒネスの映画は、『地下の民』(1989年)だけヴィデオを持っている。面白いのだが、観ようとするたびに間もなく睡魔に襲われるのは、確かに、タルコフスキーやパラジャーノフやアンゲロプロスの作品にも共通するところがあるかもしれない。映画館で観れば、決して寝たりはしないのだが。
村から首都ラパスに出て、差別をおそれるあまり出自を隠してきた男セバスチャンが、一度は村に戻る。そこで彼は、村長にまでなってしまう。しかし、米国とそれに追従する軍事政権が村を支配するために見せてきた餌に食いつき、結果として村を追われる。しばらく経ち、アイデンティティを取り戻すため、セバスチャンは、殺されるかもしれない村に決意して戻り、仮面をつけて自ら死ぬまで踊り続ける。
それまでの作品と同様に、米国や軍事権力という「第一の敵」へのあまりにもあからさまな批判を剥き出しにしながらも、小さな民族集団、抵抗するひとびとへのまなざしを、作品として昇華させている。
ところで、先日あったサンヒネス作品の上映会の際に、『地下の民』のパンフがあったので買っておいた。あらためて、白人であるサンヒネスの持続力に驚かされる。ボリビアで活動していた1971年、軍事クーデターにより、アジェンデ政権下のチリに亡命。1973年、ピノチェトによる軍事クーデターに伴いサンヒネスへの逮捕状が出て、徒歩でアンデスを越えペルーに亡命。1975年、ペルーの右傾化によりエクアドルに移動。1978年、ボリビアの民主化運動に伴い帰国。1980年、ボリビアでの軍事クーデターに伴いサンヒネスへの銃殺命令が出て逃避。1982年、ボリビアの文民政権成立により再帰国。
現在、先住民出身のモラレス政権は、自分たちの権利を取り戻すべくエネルギーや鉱物の国有化を進めている。サンヒネスが現政権をどのように評価しているか、気になるところだ。