Sightsong

自縄自縛日記

牛乳(2) 小寺とき『本物の牛乳は日本人に合う』

2008-09-24 23:59:30 | 食べ物飲み物

小寺とき『本物の牛乳は日本人に合う』(農文協、2008年)は、1982年に、群馬県の東毛酪農と共同で「みんなの牛乳」を開発したひとりである著者が、ノンホモ・パス乳の優位性について説いたものである。ノンホモとはホモジナイズ(均質化)していないこと、パス乳とは63℃30分などの低温殺菌を施した牛乳を意味する。

この「みんなの牛乳」は、生協を通じて取り始めてから、私にとって最高の牛乳の位置を占め続けている。なんともいえず甘く、さらさらして、じつに旨い。飲むたびに旨いと思う飲み物などそうはない。嘘ではない。


「みんなの牛乳」はすぐに無くなる

IDF(国際乳業連盟)の定義によれば、パス乳(63℃30分ないしは72℃15秒の殺菌)がスタンダードであって、日本でほとんどの牛乳が該当するUFT=超高温殺菌(120~140℃2秒の殺菌)は保存乳とされている。そして、生乳を輸入に頼っているイタリアのような国や、生乳の質が悪い昔の日本のような国を除いては、UHTを生産することは、コストや生産効率のみを重視した企業の論理なのだ、と本書は指摘する。そして、「よい牛乳がつくれるようになっても、乳業会社が楽に儲かる既得権を手放そうとせず、さらに行政が上塗りをしてつじつまを合わせてしまった」と、矛盾を指摘する対象は行政にも及ぶ。

感覚的に考えても、せっかくの生鮮食品を高温で滅菌する、などということが、たとえば野菜に対して行われるだろうか。その意味では、不祥事を解決してガワを取り替えても、大乳業メーカーはノンホモ・パス乳を依然として作ることはないのだ。

本書の後半では、UHT乳のたんぱく質などが熱変性を受けていて、味どころか栄養までも損なっているのだと指摘している。そして、乳糖を消化しきれず、牛乳を飲むと腹を壊す大人が多い現象は、ノンホモ・パス乳では起きにくいのではないか、と主張している。このあたりは、従来のネガティブな検査がノンホモ・パス乳を使っていないことの指摘と仮説の提唱にとどまってはいる。私も腹が弱いほうなのではあるが、さて、牛乳をUFTからノンホモ・パス乳に変えてどうなのかはよくわからない。冷たい牛乳を急に飲むと、水やビールよりもきっと熱容量が大きい(コロイドだから)牛乳は、腹の熱を奪う効果が大きいかもしれないから、多くのひとが牛乳を飲んで腹をこわしたというのは単に急激に冷やしたことが原因かもしれないのだ(いい加減な思いつきだが)。

丸谷才一『青い雨傘』(文藝春秋、1995年)には、「牛乳とわたし」というエッセイがおさめられている。要は、マーヴィン・ハリス『食と文化の謎』(岩波同時代ライブラリー)の紹介なのだが、やはり、ラクトーゼという乳糖を分解できない大人が如何に多いか、という話になっている。

「大人は牛乳が飲めないほうが健全なのだ。
 コペルニクス的転換である。
 すごいことになりました。
 しかし、たしかにさうかもしれないので、
 アメリカ黒人成人  75パーセント
 中国人成人     95パーセント
 日本人成人     95パーセント
 韓国人成人     95パーセント
がラクトーゼを吸収できないのださうである。タイ族、ニューギニア原住民、オーストラリア原住民などは100パーセントに近い。中央アフリカでも大人のラクトーゼ吸収者はほとんどゐない。
 そして今日、ラクトーゼ吸収者といふ異常(!)な連中は、アメリカ合衆国を別にすれば北ヨーロッパに集中してゐるんださうです。」

こんな極端な話を受け売りすることは、話のネタに過ぎないかもしれないので「話半分」のつもりかもしれないが、ちょっと馬鹿馬鹿しい。少なくとも、丸谷氏にノンホモ・パス乳の旨さだけでも伝えるひとがいてもいいだろう。きっと知らないに違いない。

ところでこの本、途中でいきなり目次と本当の頁番号が3頁もずれる。文藝春秋ともあろう会社が・・・。どうも途中のエッセイで、和田誠の挿絵と表が3枚あり、最後の校正段階でうっかりミスしてしまったのではないかと邪推する。いま私も仕事上出している排出権の本の新版をすすめていて、もうすぐ最終の校正段階だが、頁番号まではチェックしない。『青い雨傘』は初版第一刷だが、次の増刷からは改まったのだろうか。

牛乳ついでに、中平康が若い頃に撮った映画『牛乳屋フランキー』(1956年)を観た。牛乳配達の店で働くフランキー堺の話だが、どんな牛乳かはわからない。しかし、お得意様を連れて牧場ツアーに行くバスの中で「森永」という文字が見えたから、きっとUHT乳だろうね。


フランキー堺はモーレツに配達してお得意様を増やす

●参考
○牛乳(1) 低温殺菌のノンホモ牛乳と環境
沖縄のパスチャライズド牛乳


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8 コメント

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Unknown (ひまわり博士)
2008-09-25 12:55:28
牛乳もお好きですか! なんと趣味のお広いこと。
「みんなの牛乳」って生協で扱ってるんですか。
わが家の冷蔵庫を見たら「メグミルク」。おやおやという感じです。
出入りしている生協が扱っていれば今度頼んでみます。

ぼくは子供の頃、アメリカのテレビドラマに出て来る大ビンのクリームがたまった牛乳に憧れていました。

目次のミスは,同業として笑えません。目次をつくったあとでページの入れ替えなどが生じると起きるミスですね。
誤植のない本はまずないですし、とくに初版に誤植はつきものです。大目に見てあげましょう。
ぼくも今日、校正が出るので気を引き締めてチェックします。
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Unknown (Sightsong)
2008-09-26 00:09:45
ひまわり博士さん
はい、目くじらをたてるつもりでもありません。本はアナログな作業、大変ですよね。
牛乳のうえのクリームは旨いですね。ノンホモでなければできないものです。私は開けたてを振らずに飲むのがすきなのです。
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Unknown (tamara)
2008-09-28 23:37:17
「みんなの牛乳」は知りませんでしたが、なんだかおいしそうですね。アメリカの知人に「日本ではなぜ大人になっても牛乳を飲むのか。アメリカではミルクを飲むのは子供だけだ。」と言われ、びっくりしたことがあります。牛乳を飲む習慣はアメリカから伝わったと思っていたので。(スーパーの牛乳は味がないですね。)
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Unknown (Sightsong)
2008-09-29 02:06:02
tamaraさん
牛乳については、地域によっていろいろ事情とか思い込みとか嗜好性とか違いそうですね。美味しいものが慣れているものを上回らないこともあるし。でもみんなの牛乳は旨いですよ。
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Unknown (kincyan)
2008-09-29 05:39:35
日本人にラクトーゼ吸収が出来ない人が多いとは発見です。私もだめかも知れません。冷たい牛乳を飲むとおなかがゴロゴロするというのは、ただ単に冷えた液体を多量に飲むことによるものと思っていました。(便秘に良く効くなんていう人もいますが....)我が家では家人の方針で牛乳をパスして、豆乳一筋という時期がありましたが、いまは両刀使いです。生協に入るのは少し面倒くさいので、どこかお店でノンホモ牛乳売ってないものですかね。
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Unknown (Sightsong)
2008-09-29 07:22:51
kincyanさん
ホモジナイズされた低温殺菌牛乳なら普通にありますが、ノンホモとなると限られるでしょうね。代々木にある「ミルクランド」ならその場で飲めるということです。あとは直販ですかね。
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Unknown (alice)
2008-09-30 14:56:10
こんにちは、はじめまして。aliceと申します。

Wikipedia見ると、日本人のラクターゼ活性は年齢とともに低下し、牛乳を適量常飲することで上昇すると書いてありました。

私は一時期牛乳有害説を真に受けてて、しばらく飲んでいませんでしたが、有害説の根拠が薄いと聞いてまた飲んでます。確かに再開してしばらくはごくごく飲むとお腹がゆるくなってしまいました。今では全然平気です。

今度スーパーに行ったら、ノンホモ・パス乳があるか見てみます。
興味深い情報ありがとうございました。
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Unknown (Sightsong)
2008-09-30 18:52:06
aliceさん
なるほど、飲みつけていないと腹をこわすということですね。感覚的にも納得します。いやまあ、味を犠牲にして長期保存レベルにまで滅菌したものをごくごく飲めば、腹もこわすかもなあと思う訳です。これも感覚的ですが。
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