ジョルジォ・ガスリーニ『Gaslini Plays Monk』(Soul Note、1981年)は、ソロピアノによる、かなりヘンなセロニアス・モンク集だ。モンク自身がヘンを超えた唯一者であり、モンクにインスパイアされたモンク集は数多いのだが、それにしてもこれはヘンである。
Giorgio Gaslini (p)
ガスリーニはイタリアの巨匠であり、本作も、イタリアそして欧州に立脚する者からのモンクへのオマージュだと語っている。
本人による演奏曲の解説がマジメなのかフマジメなのか微妙で愉快だ。
「Monk's Mood」「Ask Me Now」「Epistrophy」は、「テーマとヴァリエーション」ではなく「構造配列とテーマ」に沿ったもの。最初に奇妙な構造が構築され、どこに連れて行かれるのかと思いきやテーマに戻ってくる面白さがある。
「Let's Cool One」は、「ミクロな構造」からテーマへの発展。「Ruby My Dear」「Let's Call This」は、テーマの和音構造の拡張。と言っても、ヘンな方向に拡張していくのであって、何だか聴いていると、パラノイア的なダリの蟻を思い出す。
「Round About Midnight」「Epistrophy」は解体。プリペアド風でもあり、これは遊戯だ。
「Blue Monk」では、休止とピアニスト本人による咳が大きな要素となり、やはりテーマに戻ってくると安心する。この音楽家が、モンクに匹敵する強度を持つ証拠ではなかろうか。
「Pannonica」は、「Take The A Train」のイントロから始まり、美しいテーマを大事にした演奏である。
何度聴いても何かを発見したような気になる。ガスリーニの演奏はこの盤しか持っていないのだが、他にも聴いてみたいところだ。
●参照
○ローラン・ド・ウィルド『セロニアス・モンク』
○『失望』のモンク集
○セロニアス・モンクの切手
○ジョニー・グリフィンへのあこがれ
○『セロニアス・モンク ストレート、ノー・チェイサー』