Sightsong

自縄自縛日記

A-Musik『Live at Muon '82. 12. 26.』

2019-10-18 07:57:15 | アヴァンギャルド・ジャズ

A-Musik『Live at Muon '82. 12. 26.』(クラゲイルレコーズ、1982年)。

Kenichi Takeda 竹田賢一 (fl, 大正琴)
Tetsuto Koyama 小山哲人 (b)
Giro Miyake 三宅二朗 (ds)
Tamio Shiraishi 白石民夫 (as)

翌年に録音された『e ku iroju』では多くのメンバーが入れ替わりたちかわり演奏しているけれど、これは4人。しかしA-Musikの記録を見ると、何も珍しいライヴであったのではなく、当時、実に頻繁に流動的なメンバーで演奏していたことがわかる。(2001年にはウィレム・ブロイカー・コレクティーフと対バンで演奏している。直前に行こうと思ったらどこも予約で入れなかったときかな?)

冒頭の「ワルシャワ労働歌」に続く「不屈の民」における、吹こうか吹くまいかという曖昧な態度表明すら音楽にしているような竹田賢一さんのフルートに驚く。この曲の後半から白石民夫さんが場の空気を切り裂くアルトで入ってくる。竹田さんについては、「プリパ」における自身だけでなくすべてを揺れ動かすフルート、後半の大正琴などさすがである。最後の曲で歌っているのは誰だろう?

ところでジャケットはトイレットペーパーのデザインであり、広げると「静岡県家庭用薄葉紙工業組合推奨品」のロゴがあり、メンバーリストが書き込まれたTDKのカセットテープのジャケットがくっつけてある。場所は桜木町の夢音。先の記録サイトには石渡明廣、サキの名前もあるけれどどうだったのだろう。

それにしても生きるという過程を過激に出したような音楽。ここまでメンバーが柔軟なら、千野秀一さんが帰国するタイミングでなくてもできそうなものだ。ぜひいちどは観てみたい。

●竹田賢一
竹田賢一古稀ライヴ@アトリエ第Q藝術(2018年)
A-Musik『e ku iroju』
(1983年)

●白石民夫
白石民夫@新宿西口カリヨン橋 その7(2019年)
白石民夫@新宿西口カリヨン橋 その6(2018年)
白石民夫@新宿西口カリヨン橋 その5(2018年)
2016年の「このCD・このライヴ/コンサート」
白石民夫@新宿西口カリヨン橋 その4(2016年)
白石民夫@新宿西口カリヨン橋 その3(2016年)
白石民夫@新宿西口カリヨン橋 その2(2015年)
白石民夫@新宿西口カリヨン橋(2015年)


パトリック・シロイシ『Descension』

2019-10-15 23:10:43 | アヴァンギャルド・ジャズ

パトリック・シロイシ『Descension』(2019年)を聴く。

Patrick Shiroishi (sax, loop pedal)

ソロだと思って聴くとソロではない。しかしかれに確認するとソロだという。ギター用のループペダルを使い、ライヴの1テイクで撮られている。すなわちオーバーダブではない。

それにしても圧倒的な音だ。ハウリングの音から始まり、世界が無数の咆哮でびりびりと震え、サックスのブロウがその中心で太く濃く、生命で輝いてもいる流れを放っている。深い諦めや絶望に近いやさしさもある。2曲目になり、サックスの音はさらにエレクトロニクスの内面で反響し、ギターのように変貌するのだが、再び本性を表し、轟音の中で何かを脱ぎ捨ててサックスとなる。

3曲目「tomorrow is almost over」はもはや何をオリジンとしているのか不明なマシンガンである。世界が轟音を立てて滅亡していくとき、巨竜のごとき霊がかれのブロウとともにのたうちまわる。こうなると電気的なスパークと肉体のブロウとの違いが消えてしまう。そして叫びがついに噴出する。

4曲目は井戸の底で反響するようなヴォイスからはじまる。終末感を色濃く提示するサウンドだが、不思議な安寧もある。

●パトリック・シロイシ
パトリック・シロイシ『Bokanovsky’s Process』、『Tulean Dispatch』、『Kage Cometa』(JazzTokyo)(2018年)
「JazzTokyo」のNY特集(2018/4/1)


キム・ミール+クリスチャン・ヴァルムルー+池田謙@東北沢OTOOTO

2019-10-15 07:54:57 | アヴァンギャルド・ジャズ

東北沢のOTOOTO(2019/10/14)。台風のために2日ずらしての開催になった。

Kim Myhr (g, electronics)
Christian Wallumrød (electronics)
Ken Ikeda 池田謙 (electronics)

池田謙ソロ。やはり台風の影響もあって、池田さんはいつものセットではなくコンパクトなエレクトリックボックスを抱きかかえての演奏だった。はじめは電気ならぬ生き物の脈動が聴こえた。それはさまざまに姿を変えたのだが、ひとつの音に耳を貼り付けていると隣から他の音が主体のように登場してくる。これは音同士が濁らず素晴らしい分割性を持って併存しているからだと思えた。

キム・ミールとクリスチャン・ヴァルムルーのデュオ。ヴァルムルーは低音のノイズやドラミングパルスを受け持ち、ときに高音の楔を打ち込んでくる。ミールはギターを弾いてそれを何次にも利用しつつ、キーボードで耳に残る連続音を出す。先の池田さんのサウンドと違い、互いに積極的に混じり混沌を創り出す感覚である。だがどちらかが何かの音を消すと、その不在によって音の存在に気付かされるという不思議なものでもあった。

トリオ。三者が三相となって並走というか併存する。これもまた、抽象的でありながら脈動と成長とが面白く、耳も意識も停滞しない。各々が他の二者を横目で見ながら自身の作業をしているようだと思ったのだが、実はそうでもない。背後にまわっているはずのヴァルムルーはミールの音に呼応していきなり境界を拡げたし、池田さんがミールの音に意図的にシンクロしているように聴こえておおっと目が離せなくなる時間があった。

終わってからお寿司をつまみながら(ごちそうさまでした)、あれこれ雑談。日本の伝統楽器の話になり、三味線の田中悠美子さんがスーパーだったとクリスチャンは言った。発酵食品の話になって、キムさんの一押しはヤギ乳で作られるノルウェーのbrown cheese。何でもこれを食べられるお店を見つけたそうである(代々木公園のフグレントウキョウ)。行ってみなければ。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●キム・ミール、クリスチャン・ヴァルムルー
キム・ミール+クリスチャン・ヴァルムルー+ジョー・タリア+山本達久@七針
(2019年)

●池田謙
フタリのさとがえり@Ftarri(2018年)
池田謙+秋山徹次@東北沢OTOOTO
(2017年)


るつこべちこ(磯部舞子+熊坂路得子)@The Farm Tokyo

2019-10-15 07:37:35 | アヴァンギャルド・ジャズ

八重洲のビアガーデン風のレストラン・The Farm Tokyo(2019/10/13)。

Maiko Isobe 磯部舞子 (vln)
Rutsuko Kumasaka 熊坂路得子 (accordion)

「麗しのミュゼット」という熊坂さんのオリジナルから始まって、「パリの空の下セーヌは流れる」や「オー・シャンゼリゼ」など30分。こういうハッピーな雰囲気を創り上げていくのは本当に素敵。都合があって最初のセットしか観ることができなかったのだけれど、ちょっと嬉しくなった。

Fuji X-E2、7artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●熊坂路得子
寺田町+熊坂路得子@下北沢Lady Jane(2019年)
ジャン・サスポータス+矢萩竜太郎+熊坂路得子@いずるば(齋藤徹さんの不在の在)(2019年)
酒井俊+会田桃子+熊坂路得子@Sweet Rain(2018年)
うたものシスターズ with ダンディーズ『Live at 音や金時』(2017年)
TUMO featuring 熊坂路得子@Bar Isshee(2017年)
『小林裕児と森』ライヴペインティング@日本橋三越(2017年)


エヴァン・パーカー『saxophone solos』

2019-10-13 15:05:27 | アヴァンギャルド・ジャズ

エヴァン・パーカーはずっと同じスタイルを貫いてきた音楽家にみえるけれど、実際のところ、バンドサウンドももちろん多彩だし、サックスの音色や表現自体も驚くほど変化している。初期の『saxophone solos』(Incus、1975年)など聴いたら驚く。

Evan Parker (ss)

30代になったばかりのエヴァン・パーカーによるソプラノサックス・ソロ集である。

エヴァンのソプラノは、現在のイメージは、小鳥のように、しかしたいへんなスケールで飛翔する音である。

しかし、ここで聴くことのできる音は、より凶暴で牙を剥いているようであり、かつそれが他者に対してではなく自分の存在に向けられているように思える。タンギングは速く鋭く、吹き込む息も声も活力に満ちている。その結果、小鳥どころか、途方もない力により軋む重いドアを幻視する。サックスとともに並走する声の流れもある。また、マウスピースで息をかなりの力でコントロールしており、吹き込まずにその箇所で力が逆流し、暴発を抑制する音となっている。若い時ならではの音だと言うことができるかもしれない。

B面の最後などは、「このまま聴いていたらヤバい」感にとらわれる。

●エヴァン・パーカー
シュリッペンバッハ・トリオ+高瀬アキ「冬の旅:日本編」@座・高円寺(2018年)
デイヴ・ホランド『Uncharted Territories』(2018年)
エヴァン・パーカー@稲毛Candy(2016年)
エヴァン・パーカー+高橋悠治@ホール・エッグファーム(2016年)
エヴァン・パーカー@スーパーデラックス(2016年)
エヴァン・パーカー、イクエ・モリ、シルヴィー・クルボアジェ、マーク・フェルドマン@Roulette(2015年)
Rocket Science変形版@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー US Electro-Acoustic Ensemble@The Stone(2015年)
シルヴィー・クルボアジェ+マーク・フェルドマン+エヴァン・パーカー+イクエ・モリ『Miller's Tale』、エヴァン・パーカー+シルヴィー・クルボアジェ『Either Or End』(2015年)
エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー『The Flow of Spirit』(2015年)
エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー(超フリージャズコンサートツアー)@草月ホール(2015年)
マット・マネリ+エヴァン・パーカー+ルシアン・バン『Sounding Tears』(2014年)
エヴァン・パーカー ElectroAcoustic Septet『Seven』(2014年)
エヴァン・パーカー+ジョン・エドワーズ+クリス・コルサーノ『The Hurrah』(2014年)
ジョン・エスクリート『Sound, Space and Structures』(2013年)
『Rocket Science』(2012年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』(2011年)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)
エヴァン・パーカー+オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス『The Bleeding Edge』(2010年)
ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(2008年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Gold is Where You Find It』(2008年)
エヴァン・パーカー+ノエル・アクショテ+ポール・ロジャース+マーク・サンダース『Somewhere Bi-Lingual』、『Paris 1997』(1997年)
エヴァン・パーカー+ネッド・ローゼンバーグ『Monkey Puzzle』(1997年)
エヴァン・パーカー+吉沢元治『Two Chaps』(1996年)
サインホ・ナムチラックとサックスとのデュオ(1992-96年)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981-98年)
スティーヴ・レイシー+エヴァン・パーカー『Chirps』(1985年)
エヴァン・パーカー『残像』(1982年)
デレク・ベイリー+ハン・ベニンク+エヴァン・パーカー『Topographie Parisienne』(1981年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Detto Fra Di Noi / Live in Pisa 1981』(1981年)
カンパニー『Fables』(1980年)
『Groups in Front of People』の2枚(1978-79年)
シュリッペンバッハ・トリオ『First Recordings』(1972年)


クリス・ヴィーゼンダンガー『acoustic solo piano works』の2枚

2019-10-13 10:35:59 | アヴァンギャルド・ジャズ

クリス・ヴィーゼンダンガー氏は『acoustic solo piano works』と題したピアノソロ集を2枚出している。1枚目が2011年、2枚目が2017年の録音。

Chris Wiesendanger (p)

聴く者もまるで静かな空間に投げ入れられたかのようなピアノである。それは思索をつねに伴っており、音と音の間の時間と空間とが表現の中心として提示されているからに他ならない。静けさの中での響きを示されるたびに、ああもとの音は何だったろうという内省に誘い込まれる。

2枚目は特にそのような音楽のあり方が押し進められている。つまりクリスさんは確信犯である。ひとつの和音を鳴らしては、その響きのあり方を微細に変える3曲目、単音を執拗に、しかし平然とゆったり鳴らし続ける6曲目。絶えず音楽の起点を意識させられるようである。

●クリス・ヴィーゼンダンガー
クリス・ヴィーゼンダンガー+かみむら泰一+落合康介+則武諒@中野Sweet Rain(2019年)
クリス・ヴィーゼンダンガー+クリスチャン・ヴェーバー+ディーター・ウルリッヒ『We Concentrate.』(2004年)


沖至『夜の眼』

2019-10-12 11:34:20 | アヴァンギャルド・ジャズ

沖至『夜の眼』(off note、2015年)を聴く。

Itaru Oki 沖至 (tp, 横笛, 縦笛)
Naohiro Kawashita 川下直広 (ts, vln)
Miki Tsukamoto 塚本美樹 (p)
Takayuki Hatae 波多江崇行 (g)
Kiyoshi Mamura 間村清 (b)
Keiichiro Uemura 上村計一郎 (ds)

まずは川下直広のテナーが悶える。川下さんリーダーのワンホーンでの演奏とはまた違ったように悶える。とは言え聴くたびに予想を超えてくる濃淡の大きさ、呼吸そのものを音楽にした感覚、ああこれだこれだと納得する。

沖さんの過去の作品は割と聴いているはずだが、それらの華やかさから一度も二度も爛熟し、腐敗し、またさまざまな色の花を咲かせたように聴こえる。強烈な香りも周りの草や泥や落ちて腐っている花の匂いも漂ってくる音。3曲目「My One and Only Love」が終わり、そのまま「Darn That Dream」に入っていったあとのトランペットなんて沁みる(それに限らず)。

「My One and Only Love」や「Soul Eyes」での波多江さんのソロは小さな空間のむんとした空気に音が混ざっていくようであり、とても良い。「The Girl from Ipanema」で皆と絡み溶けていくギターにも惹かれる。「Misty」での川下さんの濁りを受けての濁ったギターも良い(そしてピアノが入ると見事にギターの音を変える)。

「Ipanema」は、川下さんは『いぱねま』(2000年)でも演奏しており、それが不破さんらとのトリオであるためかテナーをより狂わせてゆくのに対し、本盤では共演者とともにじわじわと味を積み重ねていく。どちらも好きである。それにしても両盤とも福岡のニューコンボでの録音なのか。行ってみたい場所だ。

2枚目の「I Remember Clifford」ではピアノのコードを開いて受け止め、やはり有機生物の艶をもつトランペット。アンコールに応えての「Lush Life」ではトランペットが震えながらはじまるが、それはさらに深く震え続けて静かに驚かされる。静かに受け止める波多江さんのギターの歪みや和音、静かに音を重ねていくピアノがその場の空気を伝えてくれるようである。

 

Naohiro Kawashita 川下直広 (ts)
Kazuhiko Okumura 奥村和彦 (p)
Daisuke Fuwa 不破大輔 (b)

●沖至
詩×音楽(JAZZ ART せんがわ2018)(JazzTokyo)(2018年)
沖至+井野信義+崔善培『KAMI FUSEN』(1996年)

●川下直広
波多江崇行+川下直広+小山彰太(Parhelic Circles)@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2018年)
原田依幸+川下直広『東京挽歌』(2017年)
川下直広カルテット@なってるハウス(2017年)
波多江崇行+川下直広+小山彰太『Parhelic Circles』(2017年)
川下直広@ナベサン(2016年)
川下直広カルテット@なってるハウス(2016年)
渡辺勝+川下直広@なってるハウス(2015年)
川下直広『Only You』(2006年)
川下直広『漂浪者の肖像』(2005年)
川下直広+山崎弘一『I Guess Everything Reminds You of Something』(1997年)
『RAdIO』(1996, 99年)
『RAdIO』カセットテープ版(1994年)
のなか悟空&元祖・人間国宝オールスターズ『伝説の「アフリカ探検前夜」/ピットインライブ生録画』(1988年) 

●波多江崇行
波多江崇行+加藤一平@なってるハウス(2018年)
波多江崇行+川下直広+小山彰太(Parhelic Circles)@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2018年)
波多江崇行+川下直広+小山彰太『Parhelic Circles』
(2017年)


李世揚+瀬尾高志+かみむら泰一+田嶋真佐雄@下北沢Apollo

2019-10-12 08:59:54 | アヴァンギャルド・ジャズ

下北沢のApollo(2019/10/11)。

Shih-Yang Lee 李世揚 (p, melodica)
Takashi Seo 瀬尾高志 (b)
Taiichi Kamimura かみむら泰一 (ts, ss)
Masao Tajima 田嶋真佐雄 (b)

美浦さんは台風で誰も来ないかと思ったよと言ったが、いやいや、何人も集まった。シーヤンさんは8月からふた月ほどの間滞日していて、これが最後のギグである。訊いたら25個くらいこなしたらしい。本来最後だったはずの翌日の原田依幸さんとの手合わせは、台風でキャンセルになった(ピアノが2台ある公園通りクラシックスも検討したが、なってるハウスの1台でソロを交代する案になったらしい。観たかったな)。

この日も早めに終えるため、ノンストップで7つの組み合わせ。とはいえ結果的にそんなに早くは終わらなかった。

1. シーヤン+かみむら。いきなり手を伸ばして内部奏法、かみむらさんのテナーは大気とこすれ、また、音の踏み込みだけでなく身体を大きく前後に動かしてフィジカルに踏み込んでくる。シーヤンさんは鍵盤の音を散らし、また内部の弦をしならせた。

2. 田嶋+瀬尾。ふたりとも弓の先で腫れ物に触るかのようにコントラバスの声を引き出してゆく。いきそうでいかないエロチシズム、それはやがて大きく発展した。田嶋さんは端っこの弦をあり得ないくらい緩めていた。瀬尾さんは痛いほどのアタックをみせる。再びマージナルなサウンドに戻ったが、コントラバスとの付き合い方は最初とは違っていた。

3. シーヤン+田嶋。シーヤンさんは壁に飾られた弦楽器を弄び、ピアノに戻ると美しい旋律を奏でた。これに田嶋さんは呼応し、弦のノイズとともに、口笛と、驚いたことに喉歌を混ぜた。裏声で歌うが如き弦の音もある。細やかに円環するコントラバス、繰り返しては戻り発展させ分厚く円環するピアノ。ふたりの円環のコントラストが見事。

4. かみむら+瀬尾。ソプラノのマウスピースに直接口を振れず、息の風によって音を出し始める。それはシームレスに管の共鳴につながり、コントラバスのアルコとじつに艶めかしく絡んだ。ソプラノの音の幅広さがとても印象深い。最後に朝顔の詰め物が落ちて終わった。

5. シーヤン+瀬尾。足元の弦、上の弦、鍵盤と息もつかせぬほど多方面から攻めるシーヤンさんに対し、瀬尾さんも棒も使い柔軟に応じた。速度がこのデュオのテーマになった。

6. かみむら+田嶋。濃霧の中から聴こえてくるようなコントラバス、かみむらさんはキーを動かしてパーカッシヴに踊る。サックスには貝を入れ、濁ったブルースを吹く。田嶋さんの倍音も素晴らしく、その倍音はさらなる複層的な倍音へと発展した。かみむらさんは椅子を脚で動かしてガタガタと騒がせ(椅子が自らそうしているように)、田嶋さんもまた騒乱に一枚噛んだ。

7. 全員。瀬尾さんは底流、田嶋さんも他のふたりも別々の海流を創出する。彼岸に向かってのソプラノ、鍵盤ハーモニカ、ピチカート、アルコ。違う色が混じっての大きく太い濁流。瀬尾さんが演奏前に、齋藤徹さんとの縁で集まったようなものだと言った。ああ気がつかなかったと聴いていると、テツさんへの追悼に思えた。シーヤンさんは足で遠雷の音を発した。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●李世揚
李世揚+瀬尾高志+細井徳太郎+レオナ@神保町試聴室(2019年)
謝明諺『上善若水 As Good As Water』(JazzTokyo)(2017年)

●かみむら泰一
かみむら泰一+永武幹子「亡き齋藤徹さんと共に」@本八幡cooljojo(2019年)
クリス・ヴィーゼンダンガー+かみむら泰一+落合康介+則武諒@中野Sweet Rain(2019年)
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
かみむら泰一+齋藤徹@喫茶茶会記(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一session@喫茶茶会記(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
かみむら泰一『A Girl From Mexico』(2004年)
 

●田嶋真佐雄
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)


キム・ミール+クリスチャン・ヴァルムルー+ジョー・タリア+山本達久@七針

2019-10-10 07:48:16 | アヴァンギャルド・ジャズ

新川の七針(2019/10/9)。キム・ミール、クリスチャン・ヴァルムルーのふたりを週末に観ようと思っていた(る)が、台風が直撃しそうなこともあり、観られるうちに行っておくことに。

Kim Myhr (g, electronics)
Christian Wallumrød (electronics)
Joe Talia (electronics)
Tatsuhisa Yamamoto 山本達久 (ds)

3人のエレクトロニクスの性質が異なっており、それらが重ね合わされる。クリスチャン・ヴァルムルーはどこかに潜って低音から驚くほどの高音までを散りばめるが、これはかれがピアニストだからかもしれない。ジョー・タリアもまた自身のノイズの背後に隠れており、前のマイクスタンドを経由させた磁気テープを手で操作することで、見せ消しのプレイを行う。前面に出てくるのはキム・ミールであり、音を幾何学的に積み上げていくような印象を持った。

この日鮮烈だったのは山本達久のドラムス。この何層も何相もある空間を自在に遊泳し、刺激を与え、全体を動かしていた。

●山本達久
ジョー・モリス@スーパーデラックス(2015年)


高田ひろ子+安ヵ川大樹『Be Still My Soul』(JazzTokyo)

2019-10-09 08:23:38 | アヴァンギャルド・ジャズ

高田ひろ子+安ヵ川大樹『Be Still My Soul』(D-NEO、2018年)のレビューをJazzTokyo誌に寄稿した。

>> #1636 『高田ひろ子+安ヵ川大樹 / Be Still My Soul』

高田ひろ子 Hiroko Takada (p)
安ヵ川大樹 Daiki Yasukagawa (b)

●高田ひろ子
さがゆき+高田ひろ子@中野Sweet Rain(2019年)
さがゆき+高田ひろ子@川崎ぴあにしも(2019年)
高田ひろ子+安ヵ川大樹@川崎ぴあにしも(2018年)
有明のぶ子+高田ひろ子+桜井郁雄@本八幡cooljojo(2018年)
高田ひろ子+廣木光一@本八幡cooljojo(2017年)
安ヵ川大樹+高田ひろ子@本八幡Cooljojo(2016年)
高田ひろ子+津村和彦『Blue in Green』(2008年)

●安ヵ川大樹
高田ひろ子+安ヵ川大樹@川崎ぴあにしも(2018年)
マグネティ・カルテット『M』(2017年)
安ヵ川大樹+高田ひろ子@本八幡Cooljojo(2016年)
安ヵ川大樹+廣木光一@本八幡Cooljojo(2016年)
安ヵ川大樹『神舞』(2012年)


山崎阿弥『quantum quantum』(JazzTokyo)

2019-10-09 08:18:56 | アヴァンギャルド・ジャズ

山崎阿弥『quantum quantum』(2019年)のレビューをJazzTokyo誌に寄稿した。

>> #1635 『山崎阿弥 / quantum quantum』

Ami Yamasaki 山崎阿弥 (vo)

●山崎阿弥
フローリアン・ヴァルター+石川高+山崎阿弥@Bar subterraneans(JazzTokyo)(2019年)
山崎阿弥+ネッド・ローゼンバーグ@千駄木Bar Isshee(2019年)
ローレン・ニュートン、ハイリ・ケンツィヒ、山崎阿弥、坂本弘道、花柳輔礼乃、ヒグマ春夫(JAZZ ART せんがわ2018、バーバー富士)(JazzTokyo)(2018年)
石原雄治+山崎阿弥@Bar Isshee(2018年)
岩川光+山崎阿弥@アートスペース.kiten(2018年)


藤井郷子+ジョー・フォンダ『Four』

2019-10-09 07:38:51 | アヴァンギャルド・ジャズ

藤井郷子+ジョー・フォンダ『Four』(Long Song Records、2018年)を聴く。

Satoko Fujii 藤井郷子 (p)
Joe Fonda (b, fl)
Natsuki Tamura 田村夏樹 (tp) (track 6 and 7)

1年前にジョー・フォンダのプレイを観たとき、事前のイメージとずいぶん違って柔軟でユーモラスでもあった。かれはフルートも吹き、本盤でもどんなものにも対応できる音楽の広さをみせる。冒頭では柔らかい倍音のコントラバス、それが3曲目ではより押しが強くなる。そこからは何の楽器を演っていてもいかにもジョー・フォンダ。

4曲目、藤井さんが内部奏法でなのか、ずっと自動的に弦を響かせ続ける中でのフォンダのフルートと息継ぎ。5曲目、フォンダの弓弾きと藤井さんの低音。6曲目、田村さんが入っての惑わされる三体問題。

音楽には懐の深さがあるのだということが、この3人を聴いていると実感できる。

●藤井郷子
邂逅、AMU、藤吉@吉祥寺MANDA-LA2(2019年)
藤井郷子+ラモン・ロペス『Confluence』(2018年)
藤井郷子『Stone』(JazzTokyo)(2018年)
This is It! 『1538』(2018年)
魔法瓶@渋谷公園通りクラシックス(2018年)
MMM@稲毛Candy(2018年)
藤井郷子オーケストラ東京@新宿ピットイン(2018年)
藤井郷子オーケストラベルリン『Ninety-Nine Years』(JazzTokyo)(2017年)
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
This Is It! @なってるハウス(2017年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)
藤井郷子『Kitsune-Bi』、『Bell The Cat!』(1998、2001年)

●ジョー・フォンダ
ハーヴェイ・ソルゲン+ジョー・フォンダ+マリリン・クリスペル『Dreamstruck』(2018年)
ジョー・フォンダ+永田利樹@渋谷メアリージェーン(JazzTokyo)(2018年)
バリー・アルトシュル『The 3Dom Factor』(2012年)


今西紅雪+S.スワーミナータン@葛西レカ

2019-10-08 07:57:28 | アヴァンギャルド・ジャズ

近所のインド家庭料理・レカ(2019/10/6)。

Kohsetsu Imanishi 今西紅雪 (箏)
S. Swaminathan (kanjira)
Guest: Koichi Takehara 竹原幸一 (口琴)

カンジーラ奏者のS.スワーミナータンは、ジョン・マクラフリンやザキール・フセイン(タブラ)らが中心になったシャクティのメンバーだったT.H.ヴィナヤカラム(ガタム)を祖父に持つ。インド音楽をさほど知らないわたしにとっては、カンジーラの演奏を観るのもはじめてである。

最初は紅雪さんのソロ。八橋検校の「六段の調」から入り、オリジナル「秘色の雨」。同タイトルのCD作品が出ているが(田ノ岡三郎、紅雪、高橋弥歩)、秘色とは淡いグリーンのことだという。スピーディな高音に低音を混ぜていく飛翔感がある。弓(タイのサロー用の弓を大きく誂えたもの)で少し勢いを付けて入りながら指で音を添える感覚が新鮮。それは何かが終わった後の大自然のように聴こえた。続く「Float」には、弓で弾いては指で弾くコントラストがあって、ヘアピンを何個も使って自律的にフロートの水跳ねもあって、また面白かった。

続いてスワーミナータンさんのソロ。足元のスピーカーからドローンを流しつつ、驚いてしまうほどの技巧を次々に提示する。音色も一様ではなく、またサイクルも複雑。説明してくれたサイクルは7 1/2であり、そのリズムをもとに超速い指でこちらをくらくらさせる。

そしてデュオ。紅雪さんの唄、低音を中心としたグリッサンドに高音も取り混ぜて、スワーミナータンさんも一緒に走る。最後に弦を滑らせる遊び。次の曲はフォークソングのごとき親しみやすさがあり、弦のタッチも柔らかい。インドのサイクル、それに対してさらに遊ぶ紅雪さんの箏での呼応。このデュオを続けたらどうなるのだろう。

ここで主催した竹原幸一さんが南インドの口琴で参加した。息でオルガンのように使いながら別のビートをサウンドに入れた。全員愉しそうに寄せては返す波の音、三人の縄跳び。

終わってからレカのおいしいインド料理をいただいた。ここの料理はまるで油っぽくないし、(この日は出なかったが)ナンではなくチャパティを出す。食べても負担がなくて毎日でも太らなそう。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●今西紅雪
August Moon@浜町August Moon Cafe(2019年)
障子の穴 vol.2@ZIMAGINE(2019年)
今西紅雪「SOUND QUEST 2019 〜谺スル家〜」@千住仲町の家(2019年)
タリバム!+今西紅雪@本八幡cooljojo(JazzTokyo)(2019年)
ピーター・エヴァンス@Jazz Art せんがわ2018(JazzTokyo)(2018年)


奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』

2019-10-06 12:14:10 | 思想・文学

奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』(講談社、2016年)を読む。分厚い本なので電子書籍版は嬉しい。

この作家の小説を読むのは、やはりジャズを大きくフィーチャーした『鳥類学者のファンタジア』(2001年)以来である。主人公のピアニストの雰囲気も似ているなあと思っていたら、実は前作の主人公の曾孫なのだった。しばらく気付かなかった。馬鹿ですね。

いや長いけれどネタ満載で面白い。前作はタイムスリップしてチャーリー・パーカーやマックス・ローチらと共演してしまう場面がクライマックスだった。本作はというと、そのジャズマンたちが近未来にロボットとして登場する(!)。

ネットワーク空間で人が生き延びていくヴィジョンは、グレッグ・イーガン『ディアスポラ』などでの限られた世界かと思っていたら、このように発展していることにも驚いた。しかもそれだけではない。ウイルスが(以下略)。

まあでもヴァーチャル空間の新宿ピットインやアケタの店ではなく、リアル身体で訪れるリアル空間のほうが良いなあ。死ぬまでそんな選択肢はないと思うけれど。


中北浩爾『自公政権とは何か』

2019-10-06 11:33:25 | 政治

中北浩爾『自公政権とは何か―「連立」にみる強さの正体』(ちくま新書、2019年)を読む。

なぜ自公政権がこうも批判を受けながら、しかも政策的な違いが小さくないにも関わらず、安定的な政権運営を続けているのか。それは何も公明党が我慢してへばりついているから、ではない。そのことが本書を読むと納得できる。

すなわち、小選挙区制は二大政党を生み出すものではなく、一党優位に近い二ブロック型多党制を生み出すものだった。これは過去に印象深い結果となった、得票率が高くなくてもオセロゲームのようにぱたぱたと議席を獲得していく現象ばかりを意味するものではない。それよりも、もはや、連立を前提としないと政権を奪うことはできないということのほうが重要である。

自公政権はそれを実にうまく利用してきた。一方、旧民主党は二大政党制にとらわれ過ぎてしまった。

そしてまた、公明党内部では、このような形でヴィジョンが異なる自民党と組んだほうが、自党の政策をより実現できると認識していることがわかる。軽減税率もそのひとつである。集団的自衛権で譲歩したこともあって、その実現には強くこだわった。だが結果として、以下の記述はあまり妥当なものではないだろう。これがまさに現在批判されていることだからである。

「自民党の右傾化に対する「ブレーキ役」よりも、社会的弱者の味方として恵まれない人々の生活の向上を重視する公明党のあり方が、そこには示されている。」

いずれにせよ高度な選挙協力の形ができてしまったわけである。それゆえ、それに抗してふたたび政権交代を実現させるには、戦略的な野党結集が必要だということがわかる。しかし以下のようにことは簡単ではない。

「非自公勢力の場合は、そうではない。労働組合など一部を例外として、そもそも組織化された票が少なく、候補者調整を超える選挙協力が難しいし、都市部に主たる支持基盤を持つ政党がほとんどであり、地域的な相互補完性も難しい。また、旧民主党と共産党は、反自民党を奪い合う関係にある。」

だからこそ、無党派層の大幅動員、野党候補の一本化、地域での矛盾の顕在化を地域票に結びつけること、共産党とのうまい連携などが重要視されているのだろうけれど。

●参照
中北浩爾『現代日本の政党デモクラシー』
小林良彰『政権交代』
山口二郎『政権交代とは何だったのか』
菅原琢『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』
中野晃一『右傾化する日本政治』