感想:『キリスト教と日本人』

2005-10-01 23:33:20 | 本関係
 講談社現代新書。2001年発行。

題名だけで借りてきてしまった本w著者が建築史というのに後で気付きかなり不安になった。時代は南蛮貿易時代から20世紀初頭にかけて。主に日本人のキリスト教観を扱うが、宣教師たちの仏教観なども書かれていて面白い。
 
この本の特筆すべきところは、当時の珍説・奇説を紹介しながら東洋・西洋それぞれの見解の特徴などを述べているところである。歴史・宗教史の世界では往々にしてあることだが、実態と異なった言説・史料というものは軽んじられる傾向にある。これは、史料批判を主とするそれなりの理由があるのだが、少し視点を変えれば、実態とかけ離れた珍説・奇説もまた貴重な史料なのである。なぜなら、そこには当時の人々の生々しい誤解の様相が表れているからだ(高度な情報操作の場合もある)。とするならば、そういった言説がどのようにして表れたのか、それが人々にどのような影響を与えたのかということを研究することで、思想史的・社会史的に実りのある成果が出るものと思われる。例としては、戦中の新聞をあげておけば充分だろう。

この本は、まさにそのようなコンセプトで珍説・奇説を扱っている。たとえば、(仏教・キリスト教同根の見方に端を発する)キリスト教の仏教起源説などを紹介しつつ、西欧のそれと日本のそれが逆に展開(西欧は始めキリスト教起源説でそれが仏教起源説に変わった。日本はその逆)したことを示し、それが舶来史観やプレスタージョンの伝説、印欧語族の発見といった精神的なバックボーンを持っているというところまで言及している(もちろん、これが正しいかどうかはまた別問題だが)。また極端な説については、やんわりと否定的見解を示すなど、読者に対する配慮も忘れていない。

考察の点で危なっかしいと感じるところもあるが、こういった本がもっと評価されれて増えれば、歴史学の現場と一般人の歴史理解の乖離が狭まるだけでなく、珍説・奇説に踊らされる好事家も減るのではないかと思うがどうだろうか?

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