平標山の家の裏藪に見慣れないイラクサが群生していました。草丈1m以上あり、葉が細長いのが特徴です。といってもイラクサの仲間で葉が細いというのが根拠で、エゾイラクサの変種扱いにする人もいるようなのでどう表記したらよいのか迷いました。少なくとも、私の拠り所の一つである新潟県植物分図集にはホソバイラクサの記載はなくエゾイラクサのみです。
実はエゾイラクサにも細いタイプもあるとか。葉柄もやや長めにも見えますから、エゾイラクサとした方が良いかもしれません。エゾイラクサの県内の分布に関しては資料があります。少なくてもかなり稀産種で苗場山や妙高山ろく蓮華温泉などの深山と阿賀野川の河口といった場所などに自生するとあります。変わった分布をする興味深い種です。少なくとも平標山の記載はありませんからこの報告はある意味貴重な資料になるかもしれません。
イワイチョウは湿地の植物。多くは湿地にイワイチョウが群生して葉がいっぱい広がっているのを見るのですが、平標では乾燥化が進みイワイチョウが生い茂るような湿地は見られません。かろうじて命を繋いでいるといった感じがします。イネ科の草本に覆われています。
深山の林床で時々観てきたミヤマシグレです。実は新潟県内での観察は決まって長野県との県境付近で、群馬県との県境付近では初めてです。そこで、県内の分布を調べてみました。苗場山から谷川岳・越後三山を中心に上信越の県境の高山に多くの採取例がありました。意外にも阿賀野川沿いや弥彦山塊、県北中条あたりの低地にも記録があります。比較的珍しい種ですから分布の偏りや必ずしも高山にある種でもないあたりが興味深い点です。
ミヤマシグレは花と言っても全然目立ちません。小さな白い点が花に相当するものでしょう。赤くなっているのは花の後の成長しはじめた実らしい。 ミヤマシグレはガマズミの仲間で、今ではレンプクソウ科として分類されるもの。花は目立ちませんが果実は秋には赤い美しい実になります。1mに満たない低木で地を這う枝からまばらに立ち上がった枝が出ます。平標山の1500m辺りの林の中に見つけました。「シグレ」はガマズミのことを「シブレ」というのだそうですが、それが変化して使われているようです。
登り始めの頃に見たミヤマガマズミです。葉には光沢があります。ミヤマシグレに似た葉をしていますので比較のために載せました。果実の成熟するタイミングは多少異なっているようですが、秋にはいずれも赤い綺麗な実になります。
平標山の山体には針葉樹林が見当たりません。わずかにオオシラビソがまばらにかつ細々と生えている場所を確認しましたが大きく育った針葉樹は皆無に等しい状態です。存在しない訳ではないのですが、針葉樹は5種ほど確認できました。ネズコ(クロベ)、コメツガ、オオシラビソ、イチイそれにかなり低いところにキタゴヨウです。ネズコは山頂から平標山の家へ下るときに確認できました。
ネズコはヒノキ科の高木。亜高山帯の新葉樹林帯では大径木になっているものをときどき見かけます。だいたい風当たりの強い場所に生活することもあって樹形が複雑な形になることもしばしばです。平標は2000m程度の海抜で風も強く当たるのでしょう、積雪も関係して新葉樹林帯ができるには難しい場所のようです。ここにわずかに生育するネズコは斜めに傾いていて、樹形が環境の厳しさを伝えています。
イチイも稜線上に点々と見られました。いずれも矮性でよく見ると幹が折れ曲がっている状態です。よほど風が強いのですね。そういえば、イチイは新潟県内では山麓部では見られず、このような稜線上に見られます。隣の長野県で気づいたのは、もっと海抜の低いところでのびのびと育っているものを見かけますが、新潟県内では経験がありません。積雪や雪質との関係があるのではと考えています。