山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

弱者へのまなざし 帚木蓬生『閉鎖病棟』

2015-03-12 20:25:00 | 読書
 冬にもどってしまったここ数日。
 そのため、お「炬燵様」に介護されている。
 そのぶん、「雨読」ならぬ「寒読」といく。

 精神科医だった帚木蓬生の『閉鎖病棟』(新潮文庫、1997.5)を読む。
 重い過去と差別を受けてきた精神科病棟の患者群像を見つめる作者のまなざしが暖かい。
 そんななかにおきる事件。

                    
 事件に至る背景と結末がみずみずしく溢れていく。
 作者の患者へのこの暖かい視線とはどこから来るものだろう。
 山本周五郎賞を受賞しただけの価値がある。

   
                       
 作者は病棟に勤務していただけに、話題に事欠かない。
 それ以上に、テンポのいい音楽が流れているかのような文脈なのだ。
 解説の作家逢坂剛は、「ここに出て来る人びとは、わたしたちであり、あなたがたなのである」と本質的な指摘をする。

     
 そして「閉鎖病棟という言葉は、ある特定の病院を指しているわけではむろんなく、管理化されたわたしたちの社会全体を、象徴している。」と絶賛する。
 先日読んだ『水神』が農民の立場に立った時代小説だったが、これは患者の立場に立った社会への告発状でもある。

 つい最近も田舎で殺人事件があったが、犯人が作者のような先生に出会っていたら事件にはならなかっただろう、と思う。
 異端を包み込む社会やコミュニティーがいま求められているんだなー。
 

                
 
コメント
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