現在、新国立美術館では『ダリ展』が催されている。今更ダリについて語ることなどないと思うが、
例えば、最初に展示されている『魔女たちのサルダーナ(The Sardana of the Witches)』(1918年)は
ダリが14歳の時に描いたものであるが、明らかにアンリ・マティスの『ダンス(Dance)』(1910年)を
意識したものであり、若い頃からのダリの絵画に対する探求心の強さが分かる。
その後ダリは映像の分野にも進出し、『アンダルシアの犬(Un Chien Andalou)』(1929年)、
『黄金時代(L'Âge d'Or)』(1930年)をルイス・ブニュエルと製作し、『白い恐怖(Spellbound)』
(アルフレッド・ヒッチコック監督 1945年)の演出にも協力し、絵画と共に映像に関しても
シュルレアリスムの画風の基礎を確立し、もはやシュールな映像を描こうものなら、どうしても
どこかダリの作品にに似てしまうくらいの影響力を持つようになった。
個人的に一つ気になった作品を挙げるならば、1935年に描かれた『風景のなかの人物と掛け布
(Figure and Drapery in a Landscape)』である。
この作品を描く前の1934年に、ダリは雑誌に「Les nouvelles couleurs du sex-appeal spectral」
という論文を発表している。「亡霊のようなセックス・アピールの新たな彩」とでも訳せるような
タイトルを鑑みるならば、ここで描かれているものは、枝に引っかかっている突起部分が
勃起した男性のパンツの暗喩で、雲の形はそのパンツの中身そのものを表しているはずで、
同じ方向に向いているそのコントラストが美しいのである。だからタイトルを正確に訳すならば
「風景のなかの象徴と掛け布」だと思うのである。