MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

村上春樹の新訳について

2018-04-14 19:40:13 | Weblog

 引き続き『フィリップ・マーロウの教える生き方』の話である。例えば『さよなら、愛しい人(さらば愛しき女よ)』からの引用で「私はもっと練れた、派手な女が好きだ。卵でいえば固茹で、たっぷりと罪が詰まったタイプが」という文章がある(p.47)
 この元の文章は「I like smooth shiny girls, hardboiled and loaded with sin.」で、清水俊二訳では『「もっとあくが強い女の方がいいね」と、私はいった。「すれっからしで、少々グレているほうがいい」』となっている(『世界ミステリ全集 レイモンド・チャンドラー』 早川書房 p.139 1972.6.30)。
 清水訳ではほぼ「原形」をとどめていないから、そういう意味では村上訳はとても丁寧で正確なものだと言えるのだが、個人的には「私は人当りが良く輝いている女性が好きなんだ。詰め込んだ罪でガチガチの女性が」と訳してみたい。つまりチャンドラ―は前半は女性を褒めながら、後半で落としていると思うのである(そもそも村上はオノマトペを使わないだろうが)。
 そういうことで私見では世間的には評価が高いらしい村上春樹が本当にチャンドラ―の洒落っ気を理解して翻訳しているようには見えないのである。そこはやはり小説家としての限界だと思うのだが、何故か英文学者のような専門家から批判が起こらないのが不思議で、結局は小説そのものの魅力というよりも「村上春樹」というネームバリューで売ろうとしているからだと思うのだが、これではいくら改めて翻訳したところでチャンドラーの本当の魅力は日本人には伝わらないのではないだろうか?


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