チャールズ・ブコウスキー(Charles Bukowski)の遺作『パルプ(Pulp)』(ちくま文庫 2016.6.10)の訳者あとがきで柴田元幸は冒頭で次のように書いている。
「ニック・ビレーンは史上最低の私立探偵である。」(p.305)
どうもこの評価に納得しかねるのは、確かに主人公のニック・ビレーンは酒と競馬をこよなく愛する人物ではあるが、本作でビレーンが扱っている相手は「死の貴婦人(Lady Death)」という死神と「ジーニー・ナイトロ(Jeannie Nitro)」という宇宙人なのである。その上、ビレーンは二人に気にいられ、管理人のM・トーヒルに襲われているところを死の貴婦人に助けられ、ジャック・バス(Jack Bass)に依頼され調べていた妻のシンディ・バスの浮気相手である宇宙人ビリーに襲われた際にはジーニー・ナイトロに助けられ、さらにビレーンはジーニー・ナイトロからザーロス星人地球移住計画のために選ばれていたのだが、気に入られ過ぎたために地球の植民地化を諦めさせたのである。
他にもビレーンの前に立ちはだかるのはたいてい体重百キロを超える大男たちで、それにも関わらずこれだけのことを成し遂げた有名な私立探偵がいるだろうか? 柴田のニック・ビレーン評は文体などによる印象的なものでしかないのだが、問題が深刻なのは柴田は本書の翻訳者なところで、隅々まで読んでいるはずの柴田がこのような感想しか抱けないとは一体どういうことなのか?
個人的には本作はエンターテインメント小説ではなく、エンタメを装ったブコウスキーの私小説だと思う。
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