原題:『サイド バイ サイド 隣にいる人』
監督:伊藤ちひろ
脚本:伊藤ちひろ
撮影:大内泰
出演:坂口健太郎/齋藤飛鳥/浅香航太/磯村アメリ/茅島成美/不破万作/津田寛治/井口理/市川実日子
2023年/日本
「マジックリアリズム」という手段について
全く期待せずに観たせいでもあるのか、とても良くできた作品だと思う。伊藤ちひろ監督は脚本家として有名なので、てっきりストーリーにこだわるのかと思いきや、とにかく画面の構図の作り方が素晴らしい。例えば、詩織の娘の美々が美少女アニメーションの主人公を真似て鏡に向かって変身ポーズを取るのだが、最初のシーンでは鏡に主人公の未山の後輩でミュージシャンの草鹿の生霊が映り、二度目には未山の元恋人の莉子が映り、未山が同じように繰り返す料理シーンの流れで美々の「変身」のクオリティが上がっていることを暗示している。あるいは、未山が莉子を自分の部屋に招いた際に、莉子はわざと未山の部屋の畳に墨汁を撒くのであるが、詩織と美々が住む家に招かれ、一緒に食事をしようとした時には莉子はテーブルの上に誤って牛乳をこぼしてしまうのである。この「黒」と「白」のコントラストは莉子と未山の服に既に反映されているのであるが、最後に未山が見つけたさ迷っている乳牛の墨汁と牛乳を一緒にこぼしたような皮膚の色合いを、「マジック・リアリズム」による「チャーミング(魔力)」と形容する言葉以外にあるだろうか。
かなり時間をかけたであろうロケーションもかなり凝っていると思うし、とにかく最初から最後までシンメトリーとアシンメトリーを駆使して観客を飽きさせないアヴァンギャルドと言ってもいい大胆な画面作りに本当に唸ってしまった。まあ、一般的にはウケないと思うし、『キネマ旬報』のレビューでは散々の言われようだけれど、私個人のために作ってくれてありがとうございます。
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