私は滋賀県道600号近江八幡安土能登川自転車道線に入り足を止めた。急に懐かしさのようなものを感じたのである。広大な農地を眺めていると40年ほど前の故郷の景色がおぼろげながら蘇ってきた。
昭和40年代後半、市内(駅から半径1キロ以内)に水田や畑そして野原がたくさんあった。ガキどもは光化学スモッグ警報が出ようが構うことなく暗くなるまでコオロギやトンボを捕っていた。ところが緑の風景は昭和50(1975)年の山陽新幹線開通を境にわずか数年で失われたのである。

安土山を背にしてJR琵琶湖線の電車が走り去って行く。幼い私はこれと似たような風景を毎日見ていたはずである。残念ながらそんな思い出は全く頭に残っていない。15分ばかり歩けば駅だ、自分に言い聞かせるように囁き帰路についた。

