溶接について人から聞かれる事が多い。
また、溶接をやった事が無い人と話をすると、基本的な部分で勘違いをしてたりするので、俺なりにまとめてみた。
専門的な説明ではなくて、極力判り易くなるように心掛けたつもり。
「溶接」と呼ぶ為の大前提として、くっつけたい物同士を溶かして接合しなければならない。
つまりボンド(接着剤)とかロウ付け(ハンダ付けもこの一種)はここでは除外する。※数々の文献を調べると、ロウ付けは一応溶接にカテゴライズされる。俺がここで言う溶接とは「融接」の事であり、くっつけたい物=母材同士を溶かしてくっつける事を指している。ロウ付けの場合は母材を溶かさないので接着剤的。
まず、町工場レベルの設備としても一般的な物を紹介。
被覆アーク溶接。いわゆる「溶棒」である。単に「アーク溶接」というと一般的にはこの事を指す(ホントはここで紹介する溶接方法は全てアーク溶接)。
ホームセンターでも最も普通に売っている種類で、クランプ状のホルダーで溶接棒を保持して作業する。システムが単純なので個人でも入手し易く、プロが使う場合も持ち運びが楽なので建設現場作業で活躍している。電極を兼ねた溶棒そのものが溶けて、母材に肉付けしていくので、溶棒が無くなったら新しい溶棒を銜え直して作業を続行する。
↑ホルダーと溶棒。コードは単なる電線で、「キャブタイヤ」と呼ぶ事が多い。
半自動溶接。上のアーク溶接が「手溶接」である事に対して、コイル状に巻かれたワイヤー(溶棒に相当する)が自動的に出てくる。シールドガスの種類によってCO2、MIG、MAGとある。我社のはCO2とMAG両方使えるが、通常はCO2を使っている。自動でワイヤーが供給されるので、「溶棒」の時の様な面倒が無い。また、少々のスキマがあっても簡単に充填できるというイージーさもある。
↑半自動溶接機のワイヤー送給機とトーチ。コレとは別に本体がある。トーチのトリガーを引くと「シュー」とガスが出てくるのと同時に、ワイヤーも出てくる。
CO2は勿論炭酸ガスの事。スパッタが激しいのが欠点。
MIGは「メタルイナートガス」の略で不活性ガス=アルゴンかヘリウムを使う。半自動の中でアルミが溶接できるのはコレ。スパッタが出難いが、高価で溶け込みが弱い。
MAGは多分「メタル・アクティベーテッド・ガス」の略(何処にも書いてないので未確認)で炭酸とアルゴンの混合ガスを使う。CO2とMIGの中間的性質、スパッタが出難く、溶け込みも比較的深い。
TIG(ティグ)溶接=アルゴン溶接。上の二種類と異なるのは、上の二種類が「バチバチバチビビーッ」なのに対して、アルゴン溶接は「シュー・・・・。」である事。上の二種類が電極がどんどん溶けて行くのに対して、アルゴン溶接では(ほぼ)溶けていかない。緻密な作業が可能。(過去の記事、アンダーガードの製作時に解説しているので、ご参考下さい)
↑面は溶接光を感知して自動で暗くなる物。トーチのスイッチを押すと「シュー」とアルゴンガスが出てくる。
細長いのが溶加棒。銅メッキされているのが鉄用。ケースに入っているのがタングステン電極。1~2%のトリヤを含んだ「トリタン」と純度の高い「純タン」がある。
「アルゴン」て何?というと、俺も良く知らない(爆)。2ちゃんねる用語としてのイメージが付いてしまった感のある「希ガス」の一種で、元素周期表の一番右列に位置する。希ガスは「ヘネアクキラ」と覚えたな。周期表の右の方の元素の方が安定性が高い…だったっけ? アルゴンガスは、最も身近な所では蛍光灯の中に入っている。
最近は恐ろしい世の中で、上の3機種共一般家庭電源用の機種が売られている。俺自身は直接使った事は無いのだが、パワー不足で、消耗部品入手に困るとか、使用率(連続運転率のようなモン)が低いとか、余り良い物では無い様だ。
「上記三種類の内どれがいいの?」という質問もされたりするが、3機種とも使っている我社では、用途や作業環境、好みやその場の気持ちで選択している。
もしも誤解を恐れずに敢えて一台だけ選ぶとするならば、TIG。TIGであれば他の2機種と同じ作業は可能だが、逆は殆ど無理だからである。
それなのに何故他の機種も使っているのかというと、TIGは強烈に作業に時間が掛かるのである。あと、両手を使うので面倒くさいのである。
ザックリと我社での用途分けするとすれば、溶棒は現場用、半自動は鉄骨用、アルゴンは板金用。
被覆アーク溶接は原始的な工法のため、甘く見られたりするが、実は溶け込み量が深いという特性があり、鉄骨屋さんなんかでもまず最初にアークでくっつけて、その後で半自動で肉盛りする所もある位だ。欠点は腕によって仕上がりに差が出る事、見た目がキタナイ事、肉盛りが困難な事、アークを発生させるためにカンカンと叩かなければならないのでイラン場所に火花が散ったり、叩いてる内に仮付けがモゲたり…等等。
半自動はアークの欠点をほぼ解決する。誰がやってもソコソコな仕上がり、見た目も良く、バカ穴を埋めるのも楽。欠点はボーッとやってもそれなりに仕上がってしまうので、逆にバッチリ仕上げるのが難しい事、機械が時々拗ねる事。
TIG=アルゴン溶接は緻密な作業が出来る反面で、条件に対してシビア。半自動はスキマがあってもどんどん充填できるので作業も楽だし歪みも少ないのだが、TIGではスキマがある物を無理にくっつけると、激しく歪む。電極は減らないが、アルゴンガスの減りが半自動のガスの減りに比べてもかなり早い。スパッタを発生しないので、仕上がりがキレイで、火事等の事故が少ない。
もしも全くの個人が購入するならば、アーク溶接が最大有力候補かと思う。半自動はノンガスタイプもあるが、ワイヤー等の消耗部品の入手に困りそう(ホームセンターで売っている物はワイヤーのコイルがメチャクチャ小さい)。TIGの場合はアルゴンガスの入手に困るのでは? また安価に入手可能なTIGでは交流溶接=アルミの溶接は出来ないと思う(未確認)。アークや半自動でも、溶棒やワイヤーを変えればステンレスの溶接は可能。だが、ホームセンターで売ってる半自動では多分アルミの溶接は出来ない(コレも未確認)。溶棒では100%不可。
バイクのカスタムに使うとすれば、交直両用のTIGが一台あれば事足りるのだが、やり方によっては半自動でもソコソコの事はできる。アークだと荒っぽい物にしか使えない様に思えるが、工夫次第では結構イケる。
ついでに類似品(?)も紹介。
↑酸素アセチレンバーナー。主に切断作業に使う。アセチレンを高濃度の酸素で燃焼させて鉄を溶かし、酸素を高速で吹き付けて溶断する物。茶色の瓶がアセチレンガスで左隣の黒いのが酸素。また、パイプ等を曲げる時に、材料を高温に熱するのにも使用する。ノズルを専用の物に取り替えれば「酸素アセチレン溶接」が可能だが、バイクでは使えないと思った方が良い。
↑プラズマ切断機。やはり切断作業に使う。アーク溶接と酸素アセチレンバーナーの合いの子みたいな物。電気で金属を溶かし、コンプレッサーによる高圧エアで吹き飛ばす。酸素アセチレンバーナーよりも正確な切断が可能で、発熱量はかなり低い。グラインダー等の刃物系切断機が入らない場所でも切断できる。俺のVmaxのノーマルマフラーは、コレで中身を刳り出して改造してある。対応金属の巾も広い。
そうそう、機械の違いだけでなく、良く皆誤解してるのが、「基本的に異種金属同士は溶接できない」という事。例外は鉄とステンレス。ステンレスは鉄をベースとした合金なので、鉄とくっつける事が出来る。
俺の知ってるカスタムバイク屋さんが外注先のマフラー屋さんに電話してて、「エキパイ(ステンレス)とセンターパイプ(アルミ)を溶接してよ」と言ってるのを聞いたときは、内心ダメダコリャと思った。まあ、俺は元々遊びに行ってるだけで何もお願いはしないのだが。
我社はバイク屋ではありませぬが、本業があまり忙しくない時ならば、お礼程度の価格で作業しますよ。