朝、玄関を出ると、春を思わせる薄日に淡雪が静かに降りていた。庭先のハクモクレンに止まっていたヒヨドリが驚いて飛び立った。
春遠からじと思いつつも、一瞬、激しく降りはじめた雪に、見上げるスギの木やツバキの葉は瞬く間に淡い雪帽子をかぶった。
口ずさむ季節の詩は「早春賦」、ふと、春未だ浅き信州を思い浮かべた。
妻は信州安曇野の人、半世紀以上前の小学校の卒業式には、この早春賦を歌った覚えがあるという。
”春は名のみの風の寒さよ 谷の鶯 歌は思えど・・・”。口ずさむも、この歌は自分には音程が高過ぎるようだ。
詩歌をつぶやきながら、まだらな残雪の山々と芽吹きはじめた緑の織りなすさわやかな光景を思った。
信州も会津もさわやかな早春は変わらない。今年も、待ちわびたこの一瞬の季節の清々しさを心に刻みたいと思っている。